椎名くんは始まらない

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「や、や、や、やだな! 何言ってんの佐藤さん⁉︎」  私は思いっきり動揺して噛みまくった。 「だってお似合いだから」  ふふふ、と佐藤さんは笑っている。 「はよくっつけ! ってみんな思ってるよ?」 「誰が⁉︎ みんなって誰⁉︎」  そんな奴ら、いるわけない。  すると椎名くんが嬉しそうに私の肩を叩いた。 「俺ら、たまご?」 「うんうん」  返事をしたのは佐藤さん。 「やったー! 俺らもたまごだったんだ! よかったな、藤川!」 「ええっ⁉︎ 良かった……のかな?」  椎名くんはたまごになれたという喜びで、「カップルの」という部分はあまり気にしていないようだ。  ちょっと待ってよ。  カップルのたまごって、付き合ってるの? 付き合ってないの? どっち?  まだ孵っていないってことは付き合っていないんだよね?  たまごへの謎が深まる。  だけど大事にあたためていれば、いつの日か私たちもカップルのひよっこと呼ばれる日が来るのだろうか。  その前に腐らなければいいんだけど。  私は椎名くんの笑顔につられて思わず笑った。  賑やかになりそうな高校最後の一年間が、ここから始まる。
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