椎名くんは始まらない

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「椎名くんはもう生まれてるからたまごになるのは無理なんじゃない?」 「えっ。藤川、もしかしてニワトリのたまご的なヤツを想像してる?」  椎名くんが目を丸くした。 「バカだな、藤川。哺乳類はたまごから生まれないんだぞ?」 「知ってるわ」  なんか恥ずかしい。  椎名くんならニワトリのたまご的なヤツになりたがっていてもおかしくないかと思った私に正論を説くなんて、椎名くんのやつめ。 「そうじゃなくて、美容師のたまごとか医者のたまごとかいうやつ」 「はいはい。比喩的なね」 「そうそう。その後、親方に『お前もまだまだひよっこだな』って言われる方のやつ」 「誰だよ親方って」 「まずはたまごから始めたいんだよな。なんかいいの知らない?」  いいたまごと言われても、ピンと来ない。 「椎名くんは将来何になりたいの? 普通は夢に向かって始めるものなんじゃない?」 「俺の夢か……人に語るのはちょっと恥ずかしいな」 「いいじゃん。そういうの聞いてみたい」  私が身を乗り出すと、椎名くんは恥ずかしそうに首の後ろを撫でながら言った。 「大統領」 「うん。そりゃ人に語らない方がいいな」  まずは外国籍が必要かな。  知らんけど。
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