椎名くんは始まらない

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「くっそー、なんだかんだ言ってみんなも色々始めてんだな。何かのたまご」  椎名くんはがっかりしたのか、ため息をついた。 「そういえば藤川は何かやってないの?」 「私? うーん、そういえば何もないなあ」  高校三年になってもまだふわふわしている。  やりたいこととか、なりたいものが見えてこない。   「私たちって、似たもの同士かもね」 「だなー」  椎名くんはふにゃっと笑う。  まだ何者でもない。一歩も進んでいない。だけど、それでいいのかもしれない。  いつかはきっと何かになる。その時まで、私は椎名くんとくだらないおしゃべりができたらそれでいいや。  佐藤さんが私たちを見てふふっと笑った。 「何? 佐藤さん」 「ううん、何でもない」 「えー、なになに? 教えてよ」  佐藤さんの鋭い勘が気になる。  すると佐藤さんは私と椎名くんを隣に並ばせた。 「ほらね。こうすると……椎名くんと藤川さんって、カップルのたまごみたい」  私はかああっと顔が熱くなるのを感じた。
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