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第1話 嫁にほしくなるほどのカレ(1)
《台所は女の城》というのも時代錯誤で、「女だからこうあるべき、男だからこうあるべき」というのも過去の話だ。
今は共働きも当たり前になってきているし、家事を分担する家庭がほとんどだろう。
まあ何にせよ、独身者が増加している昨今では、男だって家事の一つや二つできなければやっていけない世の中ではあるのだが――坂上諒太は思う。それはそれとして、“できすぎてしまう”男もいるのか、と。
月に一度、市民センターで開催される料理教室。諒太の視線の先にあるのは、手際よく野菜を切る青年の姿だった。
諒太よりやや年下で、おそらく二十歳そこそこ。大学生といったところだろうか。長身で利発そうな顔立ちをしており、短く切りそろえられた黒髪にも清潔感がある。なによりも堂々とした印象で、姿勢がよく、動きのひとつひとつに無駄がない。
料理教室は定員十二名のなか、四人一組で実習をする形式だ。受講生は主婦層と思しき女性が多く、男性は諒太と彼の二人だけ。そのようなこともあり、諒太は彼と同じグループになったのだが、その存在感たるや凄まじいものがある。
他の受講生に比べ、包丁さばきからして明らかに違う。彼は常に周囲の注目を集めており、諒太もまた、見惚れるようにその姿を追っていた。
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