はじめに

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はじめに

皆さんは『眠れる森の美女』をご存知でしょうか。グリム童話にも収録された有名な話で、魔女の呪いによって長い眠りについた王女を白馬の王子様が助けに行く物語です。 「私にもきっといつか白馬の王子様と運命の出会いがあるわ!」と思いながら、やがて「あれは童話だから。現実にはあり得ないのよ」と諦めてしまう。 ところが、現実の世界でホントに助けに行った王子様がいます。一体どの国にそんな人が?......なんと日本です。 これからご紹介するのは、戦国時代に海を渡って初恋の女性を奪い取った、ある殿様の大恋愛物語です。 二人の物語に入る前に、恋物語の背景について簡単にご説明します。 1538(天文7)年、下総国の国府台(現在の千葉県市川市)付近に4万の軍勢が集結しました。足利義明・里見義堯・真里谷信清の軍勢1万8千と、北条氏綱・氏康親子の軍勢2万2千が、江戸川を挟んで睨みあったのです。 当時の東日本は、鎌倉時代の頃から足利将軍家の一族である足利公方家が統治していて、関東管領がNO.2として補佐していました。 その後足利公方家で内紛が起こり、古河公方と堀越公方に別れて対立します。また、足利義明は第2代足利公方の子供で、真里谷氏の領地にある小弓城に居たので小弓公方と呼ばれていました。 一方の北条氏綱は関東に広い領土を持ち、古河公方を支援していました。そして足利義明と北条氏綱が国府台で激突したのです。これを第一次国府台合戦と言います。 足利義明軍では合戦前に作戦会議が行われましたが、ここで義明が 「天下の足利家の私に本気で弓を引ける者なんかいない!作戦なんか必要無い!」 と言い出します。呆れた里見義堯は「これは負けるだろうな」と見切りを付けて、合戦に参加しませんでした。 結局足利義明は単騎で敵陣に乗り込み、見事に額を弓で射ぬかれて戦死してしまいます。 さて、この足利義明には二人の姫がいました。姉妹は安房国の里見氏に引き取られましたが、やがて北条氏の領土である鎌倉で出家する事になりました。 姉は太平寺の住持(=住職)となり、青岳尼となります。妹は東慶寺の住持となり、旭山尼となりました。 この姉に恋をしてしまったのが、里見義堯の長男・義弘でした。南房総の安房国で一緒に過ごすうち、義弘にとって青岳尼は初恋の相手となります。 青岳尼の生誕は不明ですが、恐らく義弘は8歳、青岳尼は5歳ぐらいだったでしょう。 さて、それでは物語の始まりです。
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