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寝そべりながら流行りのポテトチップスを食べていたら、コトン、という音を聞いた。
これは郵便物がポストに落ちた音だ。間違いない。
自分は古びたアパートに一人暮らし。ここでは、いまだに前時代的郵便受けが設置されている。この音は、間違いなく何かが投函された音だ。
しかし今日は休日。配達物が届く予定などない。
橘 舞香は、立ち上がった。普段の仕事着からはかなり真逆をいったルームウェアが足元でダブついているのを気にも止めずに。
郵便受けを覗くと何も入っていなかった。当たり前なのに音だけはリアルだ。このアパートに引っ越してきてから、こういう不可解な事が頻繁に起こっていた。
例えば写真立て。美しく飾った筈のものがいつの間にか移動してあったり。
そして玄関。外出していないのに、土で汚れたり足跡がついていた。まるでこの空間に誰かもう一人いるかのようだ。そして、極めつけは無言電話まで。
しかしこの一室は瑕疵物件ではない。ここでは以前に不動産の息子が暫く暮らしていたと聞いている。
なのになぜ、時折視線を感じるのだろう? 誰かに常に見られている気がする。特に夕刻。それは転居してから毎日のように続いていた。―――精神的なものかもしれない。
自分は恋人の圭太を失ったばかりだった。その喪失感は大きく、精神の波は大きく揺れている。そのせいかもしれない。
最大に悔やまれるのは、彼と「またね」と軽く別れたその日に亡くしたという事だった。彼は突っ込んできた車と衝突した。
即死だった。
自分がもう少し話し込んでいれば。
もしも自分が一緒に乗っていれば。
それからというもの、常に「もしも、あの時」が自分にはついてまわっていた。
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