約束

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翌朝。全く眠る事の出来なかった頭を無理やり起こして、仕事に行く準備を済ませ、扉を開けて外へと出た。中途採用で入った会社だから頑張らねばならない。 しかし、曇天の薄暗さが今の自分の心を映している。 知らない土地、近所の友人もほぼ皆無でこの有様。両親は早くに他界してひとりぼっち。気が滅入りそうだった。 八つ当たりだけど、管理人への疎ましい気持ちで心の中はいっぱいになった。少しの貯金だけでは心許なく、それでもなんとかこのアパートが見つかっただけでも有難いと思っていたのに。こんな事になるなんて。 「あー、しっかりしなきゃなあ」 なんでこうなっちゃうかなあ。カメラ買わなきゃなあ。そんな事を思いながら、舞香は新鮮な空気を体に取り込もうと深呼吸をしたのだった。 ヴヴヴ…… スマホだ。取り出して見る。誰からだろう? 何度か震える画面には非通知とあった。 「この……っ!」 咄嗟に気持ちがMAXになり、思わず叩きつけそうになる気持ちを抑えて、家に慌てて入って通話をタップする。 「もしもしっ! だれですか!? 」 返事はない。 「もうなんでこんな事するのっ!? やめてください!」 気がつけば涙声になっていた。 「こんな事するのって……!」 『……き…………ろ』 「なに!?」 ザワザワと何かのノイズで上手く聞き取れない。誰? 男の人? 何を言いたいの? 「ま…………い……きろ……」 ブツっと、通話は切れた。
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