17人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
途切れ途切れの言葉。何を言おうとしてたの? まさか?
いきろ、と言っていた?
先程の声は圭太のものともそうじゃないとも言えるような声だった。私、頭がおかしくなっちゃったんだろうか?
会いたい。圭太と会いたい。
ただその気持ちだけがずっと自分の中でリフレインしてる。時間だけが前に進んで自分の足はすくんだまま。
舞香は「圭太」と何度も名前を呼んだ。
その時、後ろから気配がしてハッとする。
柔らかな温もりに包まれる。霧がかったようにうっすらと見える太い二の腕。
これは圭太の腕だ。私は覚えてる。
「けい……た!?」
返事はない。
「どこにも行かんで! お願いやからっ」
必死になって壁に、天井に向かって叫ぶ。
あの時、もしも自分が引き止めていれば。
あの時、もしも一緒に行っていれば。
もしも。
何か変わったかもしれないのに……。
『また会えたね 舞香』
確かに圭太の声が宙に響いた。
「まって、どこにも行かんでっ! 私、あの時きちんとしてたら……、」
きちんとしてたら……!
してたら……!
太い2つの腕はそっとほどかれ、形が薄れていく。それは次第になくなり、消えた。
やだ! やめて! 行かないで!
そう叫ぶ心にあの日がよみがえった。
冬空の下、待ち合わせをしていたあの日。白いニットワンピースでお洒落して。
珍しく圭太が遅れてやってきたあの日。そっと背後から抱きしめられた。あの時の温もりが。あの時の彼と触れ合った心。
「圭太……」
何もなくなった部屋に一人残され、舞香はしばらくしゃくりあげて泣いていた。
最初のコメントを投稿しよう!