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たまごがきえた
スーパーマーケットからたまごが消えた。
生協で毎週注文で取っていたたまごも品切れの為配送できませんとなった。
たまごを食べたい。
たまごは総合栄養食。毎朝たまごを食べていた、日本中の家庭がとても困った。
そんな折も折。夏祭りの出店を楽しみにあっちを見、こっちを見としていた。
久しぶりにヒヨコを売っているおっちゃんの出店をみつけた。変なカラーはついていない。黄色くてほわほわのヒヨコだった。
崇と真理子夫婦は顔を見合わせた。
二人とも小さいときにこういった出店で綺麗に色づけされたヒヨコを買って、やがてすぐに死なせてしまったり、正しく育てたら育てたで、コケコッコと街中でうるさくなく雄鶏が育ってしまったことがある。
そう。屋台で売っているのはたまごを産まないオスが選別されて連れてこられているという事を、大人になった崇と真理子はしっていた。
なんとはなしにヒヨコを眺めていると出店のおっちゃんが声をかけてきた。
「どうだい?買って行きなよ。今年の商売はちゃんと考えて品物を選んで来たんだ。」
「え?どういうこと?」
崇が聞くと、おっちゃんは
「右が雌。左が雄のヒヨコだよ。つがいで買って行けばそのうちたまごが産まれる。」
「産みたてのたまごを毎朝食べられるぜ。」
このところ、たまごを食べていなかった崇と真理子は顔を一瞬見合わせたが、頷いて、おっちゃんに雌と雄のヒヨコを一羽ずつ買う事を告げた。
崇と真理子は結構郊外に住んでいたし、親の家の敷地内に別宅を建ててもらっていたので、鶏くらい飼えると思ったのだ。
小さい頃と違って、今はネットの情報もあり、飼い方なども調べれば簡単にわかる。
ヒヨコのつがいを買って帰った二人に親は言った。
「最後まで責任もって飼って頂戴ね。」
嫌な記憶がよみがえる。
これは、小学校の時に聞いた言葉と同じではないか。
崇も真理子もお店の前で、少しだけ調べてみればよかったのだ。
鶏がたまごを産むまでには孵化後5か月ほどかかると言う事実を知ったのは買ったヒヨコを家に持ち帰ってからだ。
5か月後ようやく雌がたまごを毎朝ではなくとも産み始めた。
産みたてのたまごが食べられるのは嬉しかったが、そのころにはスーパーなどでも、たまごは既に流通していたし、鶏の世話は思ったよりも大変で、崇と真理子はぐったりしていた。
しかし、おっちゃんにそそのかされたのはこの二人だけではなかった。
日本中で同じように夏祭りでつがいのヒヨコを買ってしまい、日本では今、ペットの数では鶏が一番多いと言う異常事態を迎えていた。
たまごがとても食べたかった日本中のちょうど崇と真理子くらいの20代のカップルが次々とつがいの鶏を買っていたのだ。
子供が買うのには少々高値がつけられていたので、一応大人だけれど、まだたまごの殻を被った程度にしか大人になりきれていない世代がターゲットだったようだ。
しかし、実際にたまごを産んでいるのは事実だし、詐欺ではないので警察は動かなかった。
いったいどれだけの若者が、まだたまごの殻を被っていたのだろう。やがて、雌の鶏がたまごを産まなくなって、廃鶏として、鶏肉になるまでペットの数は鶏が一番の時期は続くのだった。
【了】
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