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「……っていうのが、私たち『ステージ・オン・ザ・ガーデン』の原点っていうか、始まりだったんだよね」
大勢の観客で埋め尽くされたアリーナが、水を打ったように静まり返り、私の言葉に耳を傾ける。
「その後はさ、初めての反抗期っていうか、母さんに猛反発して、どうにかギターを弾くのと、奏太の家に行くのは許してもらったんだ。今では母さんは、私たちのファンクラブ会員第一号で、一番応援してくれてる」
アリーナが笑いと歓声に包まれる。ステージ脇で隠れるようにして立っている母さんが、恥ずかしそうに頭をかく。
「皆さ、自分に才能がないって絶望するときがあると思う。自分の無力さに打ちのめされるときがあると思う。焦がれてた将来から挫折するときがあると思う。」
後ろを振り返る。ギターを握る奏太が、あの頃と同じように、くにゃっと笑う。
「心に殻を作って閉じこもりたくなる時もあると思う」
ああ。奏太の目は、なんて綺麗なんだろう。
「自分だけの秘密を作りたい時もあると思う」
奏太の瞳が輝いている。
「そんなときに思い出してほしいことがある」
奏太の微笑みはいつも柔らかい。
「私たちは、みんな、絶対に、『可能性』っていう名前の卵を持っているんだよ」
奏太の瞳がキラキラと宝石みたいに輝いている。
「『才能』とか、『夢』がたくさんつまっている卵を」
奏太の瞳には、私が映っている。きらきらと輝いている私が。
「だから、その卵をさがして、大切にあたためてあげてね。諦めないでね」
満員の客席から、大きな、大きな歓声が沸き上がる。
「では、聞いてください。新曲――・・・」
私と奏太は、今日もギターを思いっきりかき鳴らす。
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