わたしの中のたまご

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 それからは月曜日が待ち遠しくてたまらなかった。  土曜日よりも日曜日よりも月曜日が好きになった。  日曜日の夜になると楽しみ過ぎて、なかなか寝ることができなかった。  初めて見た奏太君の演奏はあんなにも滅茶苦茶で衝撃的だったのに、教え方は意外にもしっかりとしていた。  ギターの「ドレミ」みたいな基本的な「コード」というのをいくつか教えてくれて、一ヶ月ほどで簡単な曲なら弾くことができるようになった。  一本のギターを代わりばんこに使って、飽きることなく、時間の限り、歌った。  奏太君も秘密の卵を持っていた。 歌の合間に、なんでもないことのように教えてくれた。 「俺、学校行ってないんだ」  ジャカジャカと弦をはじく。 「お父さんが死んじゃって、お父さんがくれたギターをずっと弾いていたくて」  初めて会った日にやっていたように、奏太君は激しくギターをかき鳴らす。   音の塊が心にぶつかってくる。 「お父さんが死んで、俺すっごく寂しかったんだよ」  歌うように奏太君が叫ぶ。 「でも、もう寂しくないんだ」  ふいに奏太君の手が止まる。耳の中にはうっとりするような余韻が残っている。 「千弦がいてくれるから」  静かな奏太君の声が心に静かに響いた。 「俺、明日から学校に行こうと思う」  奏太君の声が、どんな音楽よりもきれいで、透明で、私の心がどくんと跳ねた。 「千弦が、俺を閉じ込めてた殻を割ってくれたんだ。…ありがとう」  パキパキっ。  何かが割れるような音が頭の中に響いた。殻を破って、何かが生まれるような音だった。  奏太君が、こそばいようにはにかむ。ほっぺたが赤い。  この生まれたての、フワフワしていて、ぴょこぴょこと跳ねる気持ちの名前を、まだ私は知らない。  でも、なんだか私も、こそばくなって、顔が熱くなって、居ても立ってもいられなくなって、 「もう時間だから帰るね」 と走って、庭を出た。後ろから「また来週なー」という奏太君の声が追いかけてくる。
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