わたしの中のたまご

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 そう言うと、男の子はジャカジャカと嬉しそうにギターを鳴らす。 「おれは奏太(そうた)」 と同じように地面に書いて短く自己紹介をすると、 「弾いてみる?」 とギターをこっちに向ける。 「でも、弾き方知らないし」と拒むように両手を前に出すと、 「知らなくても大丈夫。適当でいいから」と笑顔で押し付けてくる。  押されるようにして、私はギターを抱える。  どうしよう、と眉を下げて困惑する私の前で、奏太君は「こうするんだぞ」と目に見えないギターを弾くふりを見せてくれる。  奏太君があまりにも楽しそうに、音の出ないギターを弾くものだから、なんだか私も楽しくなってきて、そしてもっと楽しくなりたくて、見よう見まねで右手を弦に向かって振り下ろした。  音の塊が耳に飛び込んできた。  音の衝撃が右手の指先から腕をつたって体を震わせる。  その振動が胸の奥の心臓があるところまでダイレクトに伝わる。  生まれたての心臓みたいに鼓動が大きくなる。  もう一度、弦をはじく。  ピアノとは違う。  さらに弦をはじく。  肌が震える。耳じゃなくて、体が直接音楽を感じる。  旋律やメロディなんて関係ない。
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