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ぼくは「いきものがかり」だ。
小学校の飼育小屋にはうさぎとにわとりとうこっけいがいる。他にもインコとかの鳥小屋と、こいが住んでる小さな池もあるけれど、そっちは先生がやるからぼくたちは世話はしない。
四年生から六年生までのいきものがかりが順番で世話をしていて、ぼくたち四年生はクラスが二組だから四年生が担当の日は先生と一緒にそうじをしたり餌をやったりする。
女子はにわとりやうこっけいがこわいって言うから、ぼくたちがにわとりとうこっけいの小屋に入るんだけど、にわとりって凶暴なんだよ。
きっとたまごを盗みに来てるんだって思われてる。
小屋に入ったとたんにすごい声をあげるし、高いとこに飛び上がってから飛び降りながら突っついてきたり、けってきたりするもん。
うこっけいはそんなことしない。
いつも小さくコッコッコッて鳴きながらぼくの撒いた餌を食べてるだけ。
たまごもあっためる気があるのかあやしい。
別に盗ったりしないけどさ。
「ねぇたっくん、うこっけいのたまごってもらえないかな?」
今日の世話は女子のかれんちゃんが休みだからぼくひとりでやらないといけない。
先生もいるけど、二人で手分けをするとほとんど一人でやるのと変わらない。
そんなぼくに、クラスで一番かわいいまなちゃんが声をかけてきた。
「うこっけいの?」
「そう。おばあちゃんがうこっけいのたまごが欲しいんだって」
たまごを盗るのはダメだって言われている。
なんでダメなのかって先生はいっぱい話してたけど、話が長くてぼくにはよくわからなかった。
「おばあちゃんが欲しいの?食べるのかな」
「わからないけど、多分」
全員分のたまごはとてもじゃないけど無いから、秘密であげないといけないよね。
それに毎日食べたいって言われたらどうしよう?
「盗っちゃダメって先生に言われてるから」
「そうだよね」
「うーん……」
困った。
まなちゃんはしゅんとしてしまっている。
おばあちゃんに怒られちゃうのかな?
「一個だけなら」
困ったぼくはまなちゃんのためにコッソリとたまごを渡すことにした。
先生がインコの小屋にいるうちにたまごをひとつサッと採ると、飼育小屋の近くで待ってたまなちゃんに手渡してあげた。
「ナイショだからね」
「うん。ありがとう」
そのあとはもうドキドキだった。
うこっけいがおそってくるかもって思ったけど、あいつらたまごが盗られても気にしてないんだ。
先生もいちいちたまごの数までは確認してない。
けど、家に帰ってからもどうしてかたまごのことが気になってしかたがない。
あのたまごからはヒナがかえったはずだよね。
お母さんうこっけいがあっためてたもん。
食べられちゃったらもうヒナにはならない。
ぼくはすごく悪いことをしてしまったんじゃないかしら?
次の日の朝、まなちゃんに謝ってたまごを返してもらうと決めて教室に入ったぼくを待っていたのは困った顔のまなちゃんだっま。
「あのね、あのたまご、たまごじゃなかったみたい」
「え?」
「なんか黒いのが出てきておばあちゃんがギャーッて」
「く、黒いの?」
「よくわからないけど」
「そうなんだ……」
「たまごはもういらないみたい」
「うん」
よくわからないけど、たまごはもう変えして貰えないらしい。
ぼくがダメだってことをしたから黒いよく分からないものが出てきちゃんたんだ。
家に帰ってママとパパにその話をしたら、パパは声を上げて笑った。
「それは烏骨鶏の雛だよ。有精卵だったんだな」
「ゆーせーらん?」
「普段たくが食べてるスーパーで売ってるたまごはほとんどが無精卵っていって温めてもヒヨコが生まれたりしないんだよ」
「そうなの!?」
「で、烏骨鶏はオスとメスで飼ってるから有精卵。ヒナが出来るたまごだったんだよ。」
「ヒナを殺しちゃったの?」
「そういうことになるなぁ」
「可哀想に。たく!もうダメって言われたことはしちゃダメよ」
ぼくはとてもがっかりした。
なんでダメなのか、今度からちゃんと理由を聞かなくちゃ。
「それにしてもたまご貰ってこいって孫に言うなんてとんでもない婆さんだな」
パパは味玉子を食べながら苦笑いしてビールを飲んだ。
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