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非接触型殺人
「横浜読読新聞」(令和五年〇月13日金曜日)の記事によると
それから三日後、横浜線の車内で事件が起きた。痴漢に襲われたOLが緊急停車ボタンを押したところニュッと生暖かいおしぼりが飛び出した。パニックで将棋倒しが発生。死傷者多数の模様。
神奈川県警は類似の事件を洗った。
2007年、東京の「ホテルサウナ」で、「非常用おしぼりボタン」を使おうとした男性が死亡する事故あった。
同年、アメリカ南部セントルイスのKマートで、「非常用おしぼりボタン」を使おうとした見知らぬ男性が殺害される。
同年、オーストラリアの男性が、このボタンを使おうとして心臓発作と思われる症状で死亡。
2015年、イギリスの男性が、母親がスマホのボタンを押させた後、同年に死亡。
2017年、カリフォルニアの女性がボタンを使おうとして同年に死亡。
2018年、ニューヨークの18歳の少年が、スマホのボタンを押させた後、同年に死亡。
2018年、カリフォルニア州の女性がスマホのボタンを押させた後、死亡した。彼女の死は、ヘロインの偶発的な過剰摂取とされた。また、テキサス州、イリノイ州、メリーランド州、ユタ州、オハイオ州、アリゾナ州、オレゴン州、ニュージャージー州でも同様の事件が報告されている。
●合同捜査本部
「それで犯人はまだみつからないのかね!」
チーム長の長谷部がイラつく。
「押収したカメラ映像から不審者を」
「押しボタンの自粛が社会問題になっているんだぞ!」
給与泥棒め、と毒づく。
事件発生から二週間。いまだ解決のめどは無い。痕跡からは犯人像すら浮かばない。
「しかし手詰まりで」
「だったら現場百遍だ。刑事なら自分の足で捜査しろ。どんなに優秀な犯罪者も必ずミスを犯す」
そういうと長谷部は車両基地に赴いた。ボタンを改造した不審者などいないに関わらずだ。「また貴方ですか」と嫌な顔をされた。長谷部は終着駅から回送電車に乗り続けた。「何度でも張り込んでやる。犯人は必ず現場に戻る」
二日後、また緊急停止ボタンで死人が出た。
「鑑識の結果が出ました。被害者は背中を鋭利な刃物で刺されていました。凶器は刃渡り二十センチほどのナイフです」
「そんなことはわかっているんだよ! 犯行に使われた凶器はどこにあるんだ?」
チーム長が声を荒げた。
「それは……」
若い刑事は言いよどむと顔を伏せた。
「いい加減にしろ! お前たちのせいで、どれだけの犠牲者が出ていると思っているんだ? これ以上犠牲が出る前に必ず捕まえろ!」
「はい……わかりました」
「⦅⦅回送組⦆⦆はどうなっている?」
課長が大声で怒鳴った。彼は大量の捜査員を回送電車に派遣していた。
「空振りでした。チーム長」
部下には謝罪する暇より仕事を与える。
「おい、この報告書もすぐに再提出だ!」
若い刑事が口ごもる。
「あのう……」
「なんだね!?」
「今、おっしゃられた件なのですが、被害者の身元がわかったのです」
「何だって?」
「被害者は都内に住む会社員の女性で、年齢は四十歳前後。死亡推定時刻は昨日の午前三時三十分頃となっています」
「それがどうしたというんだ?」
「実はですね、この女性は前日の午後十時頃、自宅を出て電車に乗っているんです」
「それがこの事件と関係あるのか?」
「はい、その時間だと電車の中はかなり混雑しているはずですよね」
「そうだな。通勤時間帯だから満員だったはずだ」
「でも不思議なんですよ。目撃者の話によるとこの女性はまったく人と接触しなかったそうです」
「どういうことだ?」
「つまりこの女性が乗った車両に不審者は誰もいなかったってことらしいんです」
「なんと! それは本当か?」
非接触型殺人とはどういうことか。死因は出血性ショック。背中から右肺にかけて刀傷⦅ばんしょう⦆。不可解な手口だ。
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