迷惑系配信者と経営者

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迷惑系配信者と経営者

目が合った瞬間に言われた。 「おや? またお会いしましたね」 「はぁ?」 レストラン檸檬のオーナー飛田は耳を疑った。その業者に知り合いはいない。 なのに作業服姿の男は妙に馴れ馴れしい。 「今日は頑張って急ぎました。ちょっとだけ時間はありますよね?」 肩まで伸びる栗毛と日焼けしらずのうなじがなまめかしい。 「きっ、機械が壊れたのは今日が初めてだ……の筈だ。もう治ったんだろ?」 小銭と千円札を請求書のうえにバラまいた。無言の退去命令である。 「ええ、ですから保守契約のご案内を」 飛田は差し出された案内書の束を突っ返し一喝した。 「間に合ってる!」 逃げるように走り去る車を青ざめた顔で見送る。そして閉店の札を掲げた。 神田の家族向けレストラン檸檬にある日、突然、おしぼりボタンと書かれた赤いボタンが設置された。すぐ通報し爆発物処理班まで出動したが何事もなかった。すぐ割れそうなプラスチック製の安っぽい作り。誰が何の為に。 バズらせた配信者が真っ先に疑われたが防犯カメラに該当者はいなかった。 飛田は非礼をわび被害届を出さない条件で和解した。 それどころか配信者から提携を持ち掛けられた。 彼は驚きながらも、お客さんにもっとサービスを提供するために、そのボタンを押すとおしぼりが自動的に出てくる仕組みを導入することに決めた。しかし、ある日、そのボタンに異常が発生した。 飛田は忙しい中、ボタンを押しておしぼりを提供しようとした、その瞬間、店内の明かりが消え、エアコンが止まり、BGMが停まった。 お客さんたちは騒然とする。 電気関係のトラブルだと思い、修理業者に電話をかけたがつながらない。 「ドッキリかよ!」 スマホで配信者を呼びつけた。「飛田さん。ブレーカー落ちてますよ」 パチンとスイッチを戻すと灯りが戻った。しかし飛田は腑に落ちない。 「まさかナマじゃねーだろうな」 配信者につかみかかると両手をあげ「勘弁してくださいよ」と言われた。 彼は動画編集作業を中断して駆け付けたのだ。今夜の配信は中止になった。 オーナーは慌てて謝罪したが決定的な亀裂が入った。 事件を境におしぼりボタン目当ての客足は遠のいた。「一度、会って話そう」 飛田は留守電を残すと今日も常連のためにポチポチおしぼりボタンを押す。 檸檬の件でSNSがプチ炎上したが配信者がスルーしたためすぐ鎮火した。 健太郎が届け出しなかったためボタンすり替え事件は終息したかに見えた。 そして、ある日、飛田がおしぼりボタンを点検していると新たな文字が追加されていた。見るなり昏倒し措置入院となった。何があったのか。
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