父の昔話③

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 そう、「面白そうに」語っているのだ。  父はこの時、苦労話ではなく「お父さんは子供の頃にこんな事をしたぞ」という話をしていているつもりだったのだろう。実際、その時の父の顔に悲壮感らしきものが全くなかった。  「何故そういう事をしたか」、その理由説明の為に先に「給食費」の話をした…といったところか。そしてその話の締めとして  「それでお父さん金稼いでの、学校で担任に『給食費じゃ!』って全部払ってやったわい!⁠(⁠ ゚⁠∀⁠ ゚⁠ ⁠)⁠」  …と、「してやったり」と言わんばかりの顔で語る。そして父は当時10歳、小学5年生だ。  父の話しぶりを見て、私も「苦労話」のイメージが湧かなかった。父自身、そういうつもりで話したのではなかったろうが、この話を「理解」出来たのはかなり後の事だった。  皆の前で恥をかいて悔しかった。それで泣くどころか腹を立て、何と大人の現場で危険な仕事をして金を稼ぐ。そして自らの手で給食費を担任に突き出す。  とても10歳の子供の発想・行動とは思えない内容だ。「時代」というのもあろうが、破天荒過ぎる。しかも父本人にとってそれは単に「子供の頃の話」でしかない。  前述の「ニートは許さん」的な話も、父のこういった背景に裏打ちされている部分があるだろう。ただ言い方も内容も、小学生の頃の私には理解が追いつかず、成人するくらいの歳になってようやく理解した。  良い所もそうでない所も、人の3倍はあろうかという父だった。 「豪胆」を地で行く人だった。一方で理不尽な人でもあった。  そしてその父の「昔話」は、単に思い出話としてではなく、私の中に価値観として形を変えて根付いた。
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