報道の格差

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被害者女性全てが訴え出たとは限らない。故に少なくとも十数人が暴行の被害にあったという事だ。 しかも犯人は「韓国籍の男」である。 私はそれを見て愕然となった。 そして「沖縄の事件」、数ヶ月前の「あのクラス中の熱量」を思い出した。 私が在日韓国人だということは、同じ小中学校に通っていた人なら全員が知っている。勿論、事件そのものは「私という個人」に関係のある事ではない。韓国籍だからといって私個人が責められる事でもない。 それが解っていても、怖いとまでは言わずともかなり不安な気分にはなる。 私個人に話が向けられなくとも、クラス中が「沖縄の事件」と同様に「韓国籍の暴行犯」の話題で持ち切りとなっているだろうと、想像せずにはいられない。次の日学校に行く事を考えると非常に億劫な気分だった。 そして翌日。私は周りの様子を伺いながら教室に入った。心は完全に構えている状態だ。 だが…… 誰一人として話題に上げていなかった。 拍子抜けしたと言おうか、呆気に取られたと言おうか、逆に驚いたと言うべきか…私はもう、どう表現したらよいか解らない心持ちとなった。 妙な緊張感と不安、そして「何故誰も口にしないのか」という疑問で頭が一杯のまま、1日が過ぎた。 翌日も同様に、誰も「韓国籍男性による婦女暴行事件」について語るものはいなかった。 そう、誰もその事件を知らないのだ。 それこそ「6時のニュース」でチョロっと流れて終わったのだ。私はそれを偶然目撃したに過ぎなかったのだ。実際、そのニュースの続報を目にする事は無かった。 犯人も「韓国籍の男が逮捕」とだけであり、名前も出ていない。 「沖縄の事件」とのあまりの格差。これだけ報道と人々の反応に差があれば、どんな人間でもそれを疑問に思うだろう。 私は少なくとも高校生の頃までは、「日本の戦争=悪逆非道」と信じ込んでいた。 「日本は戦争で酷い事をした」と頭からそう思う人間だった。昭和天皇も伊藤博文も、漠然と「悪人」だと信じていた。自分は祖父母からそんな話を聞かされた訳でも無ければ、親から(韓国の様な)反日教育など受けてもいないのにである。私はその事に無自覚だった。 その「無自覚な反日」である10代の私に、その「報道の格差」は真に大きな衝撃であった。 私という在日韓国人が、「無自覚な反日」から脱却した要因。その最初の一つが、偶然目にした「報道の格差」だったと、振り返ってみてそう思う。
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