もう好き。

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「よし、出来た!」 「おっ、完成したんだ?」  「ああ。渡瀬に相談したおかげでいいのが仕上がった。ありがとう」  気がつけば仕事に集中しすぎていたようで、定時はとっくに過ぎてしまっていたのか、部署内には二人の姿しか見当たらない。 「お礼に飯でも奢らせて」 「そんな、いいよ」 「いいから。このままいつもの定食屋にでも行かない?」 「わかった」  正直、今二人でどこかに行くのはちょっと気が引けるところだけど、上本の態度からして変に意識しすぎているのは自分だけかもしれないという思いもあり、行くことにした。 「こんばんは」 「上本くん、いらっしゃい。適当に座って」 「はーい」  仕事帰りによく立ち寄る定食屋さんは、オフィス街から少し離れた路地裏にある。お店のおかみさんとも自然と顔見知りになっているところが、人懐っこさのある上本らしい。  慣れた足取りで店の奥の二人掛のテーブルに向かい合って座ると、タイミングよくおかみさんがコップに入った水を持ってきた。 「今帰りかい?」 「そうです。本日の日替わり定食は?」 「今日は肉じゃがだよ」 「じゃあ、それを……二つでいい?」 「あっ、うん」 「二つお願い。あと、ビールも二つ」 「はいよ」  注文が終わると、おかみさんは「日替わり定食二つ」と言いながら、カウンター裏へ戻っていく。  面と向かって顔を見ることが出来ずに、視線を下げたまま目の前に置かれた水の入ったコップに手を伸ばして一口飲む。渇いていた喉が潤っていくのを感じながら、向かい側からの視線に気づき、ふと顔を上げる。 ――どくんっ――  見られているその視線に、胸の奧が大きく脈を打つ。真っ直ぐに向けられた眼差しは、逸らすことを許してくれなくて――コップを持ったままの手が、そっと上から握られたことに、体が震えた。 「あの……うえ、もと……?」 「あっ、悪い……」  困ったように名前を呼んだ俺に我に返ったのか、ハッとした表情で握られていた手が解放されて、そこにあった温もりが一気に冷めていく。  離しちゃうんだ――しかも、そんなに罰の悪そうな顔をして――まるで悪いことしたみたいな素振りで落ち着かない様子だ。 「別に謝ってもらいたい訳じゃないし……」 「あっ、ああ……」  自分がどうしてこんなにモヤモヤしてるのかはわからないけれど、少しきつい口調で言うと、今度は困ったような表情になり、顔をまともに見ることさえ出来ないから、気まずい空気になってしまう。 「はい、お待ち」 『「どうも」』 「これ食べて二人とも元気だしな」  おかみさんがそれぞれの前に肉じゃが定食とビールを置いたタイミングで二人同時に会釈をすると、元気よく言われた。  思わず顔を見合わせて笑う。 「じゃあ、まずはビールからということで、乾杯」 「乾杯」  手に持っているグラスを当てると、ぐいっとビールを喉の奧へと流し込む。   「さっ、食べよう」 「うん」  『「いただきます」』  またハモるように両手を合わせると、備え付けの割り箸を割って、ご飯を食べ始めた。  食べている間は、特に会話をすることなく食事に集中する。  久々に食べた肉じゃがは、めちゃくちゃ美味しかった。
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