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あの日から、自分が何となくおかしいことには気づいていた。今まで意識したことなんてなかったのに、気がつけば視線の先に上本がいる。
まさか――そんなはず――ないよな?
自分に言い聞かせるように胸中に問いかけてみるけれど、答えなんて見つかるはずもない。
「おい、渡瀬。ちょっといい?」
「あっ、うん」
「ここなんだけど、お前だったらどうする?」
俺たちの仕事は、クライアントが求める広告を作成するデザイナーで、新規のクライアントのデザインを任された上本が意見を求めにやってきた。
もちろん、それに対して真摯に向き合おうと、俺もしっかりと話を聞くために耳を傾けているのに、今まで気になることのなかった距離感に胸がざわつく。
「ここ、もう少しはっきりとした色にした方がいいんじゃないかな?」
「あー、やっぱそう思う?」
「うん」
「だよな。じゃあ、手直ししてくる」
指摘したところを上本も同じように感じていたらしく、俺のデスクの上に置いていたゲラを手に取ると、自分のデスクへと戻って行った。
別に普段と何ら変わらない光景のはずなのに、妙に胸が煩いのは、俺が意識しすぎているせいだろうか?
でも、あんなに真っ直ぐ告白されたことなんて今までなかったし、上本はそれなりに容姿端麗で一般的にはイケメンの部類に入るだろうから、びっくりはしたけれど、決して悪い気はしない。
おそらく部署内にも上本を狙っている女性社員はいるはずだ。そんな女性社員を差し置いて、俺なんかが好きになってもいい相手なんかじゃない――はずだよな?って、好きになる前提になっているこの感じは何なんだ。
モヤモヤする気持ちを吹っ切るように首を横に何度か振って、自分の仕事に戻る前に視線の先に捉えたのは上本だった。
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