もう好き。

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「ごちそうさま。やっぱここの定食屋さんは、美味しいね」 「だな。今日は本当に助かったよ。ありがとうな」 「そんなの、お互いにアイデア出し合って、これからもいい作品作ってけばいいじゃん」 「頼もしいこと言ってくれんじゃん」 「たまにはね」  アルコールのせいか、少し体が火照っている。パタパタと手で顔を扇いでいると、「大丈夫か?」と覗き込むように問いかけられた。 「だ、大丈夫」 「そっか。なら、駅まで送ってく」 「うん」  ふわついた足取りで、何とか上本の少し後ろを着いて歩いていると、 「上本くん!」 「おっ、佐伯さん」  前から歩いてきた女性に声を掛けられて、上本の足が止まった。続くように足を止めると、顔を上げて登場した人物を確認する。  小さくて可愛い白のブラウスが似合う女性だ。上本を見つけて嬉しそうに笑顔で話している佐伯さんという女性は、どうやら同じ会社の総務部らしい。  それにしても、さっきからやたらと上本に対してボディータッチが多い気がするのは気のせいだろうか? それを気にも止めず受け流しているこいつもこいつだ。 「今度一緒にご飯行きましょうよ」 「そうだね。機会があったらね」 「絶対ですよ」  女性独特の少しキーの高い声で上本の腕を掴みながら上目遣いをし、お誘いを掛けていて、さずがにこれには俺だって、何か――むかつく……――。  気がつくと、俺は彼女が掴んでいる方の上本の腕を取り、歩き出す。 「おい、渡瀬。おいっ」 「なに?」 「どうしたんだよ!?」 「別に……」  ちゃんとした答えなんて言えないまま、どかどかと大股で歩いていく俺のあとを、それ以上何も聞かず、手を振り払うこともなく、着いてくる。  ようやく足を止めてみるけれど、振り返ることができないまま掴んでいる手に力を入れたー。 「渡瀬……?」 「お前……俺のことが好きなんじゃないのかよ……」 「そうだけど……」 「じゃあ、さっきのは何?」 「さっきって……? 佐伯さんのこと?」 「ベタベタ触らせやがって……」 「なにそれ……もしかして、妬いてんの?」 「うるさい!」  この感情が何を意味するのかは、まだわからない――。ただ、上本が佐伯という女性に触れられているのを見るのは、無性に腹が立った。 「やばっ、すっげぇ可愛いんだけど……?」 「可愛いって何だよ」 「そのままの意味だけど……?」 「ふざけんなっ」 「ふざけてなんかない。やっぱ、このまま帰すのは無理っぽい……」 「どういう意味だよ?」  いつの間にか掴んでいた手は掴まれていて、形勢逆転になっていた。 「もし、本気で妬いてくれてるなら……このまま連れてっていい?」 「それって……」 「帰したくないって言ったら?」 「そんなの、わかんない……」  いや、違う――。本当はもうとっくにわかっている。こんなにも心臓がとくとく音を立てていて、もっと触れられたいと思うのは、上本だからだってこと――。 「なあ、俺のこと好きになれよ」 「もう、なってるって……」 「ほらっ、やっぱ最高に可愛いじゃん……」 「うるさい……」  掴まれていた腕が離れると、柔らかく微笑みながら覗き込まれて、頭にそっと手を乗せられる。  思わず照れ笑いを浮かべると、俺たちはそのまま夜の街へと歩き出す。  そして、まだ薄っすらとした春の麗らかな夜明けの空に変わるまで、同じ時間を過ごした。
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