第一章 青の国の聖……女……?

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 次期聖女と呼ばれ、アレイオラ帝国の皇族の一人に数えられているものの、ジェトは──いや、ジェトとクロイツ()は複雑な生まれだった。  二十年前、アレイオラ帝国は隣国メタリアに侵攻。彼の国を統治していたメタリア皇帝ジェダイを倒し、彼の家族を捕虜としてアレイオラ国内に連行する。  ジェトの母ビクスもその捕虜の一人だった。  彼女はジェダイ帝の妹であり、連行されてすぐに、アレイオラ皇族の分家の一つ、ハウンド家の当主にて前皇帝の後継者候補の一人であったジェトの父ヘルデの妻となる。もちろん、捕虜の意思などない、強要された結婚だったとのこと。  もっとも経緯は最悪だったが、幸いなことに出会って意気投合した二人の夫婦仲は大変よく、今でも周囲が呆れるくらい仲睦まじい。  が、問題はその二人の間に生まれた、クロイツ()ジェト()。  クロイツは体が弱く、加えて生まれつき足が悪かった。杖など体を支えるものがあるならなんとか立つくらいはできるが、歩くことはできず、普段は車椅子を使用している。  また、髪の色は母と同じメタリアの皇族色(深く鮮やかな緑色)だが、メタリア皇家の数世代前の先祖の婚姻の影響故か、光の加減によってはやや燻んだ朱色に見える瞳を持って生まれてしまった。  朱色はアレイオラ(この国)にとって、悪魔の色。憎むべき炎の帝国(フェリンランシャオ)の皇族色。  故に、兄は成人皇族の一員でありながら人前に出ることは殆どなく、儀式等に列席する際は薄布で顔を覆い、常に人々の奇異の目に晒されることとなる。  対するジェトはというと、健康面では何の問題はない。髪はやや緑がかった明るい水色で、瞳の色はアレイオラの皇族色(鮮やかな青)。誰がどう見ても文句なしに皇族のお姫様だが、問題は──。 「エースーテールーぅ!」  ジェトは大声で叫びながら青い長い髪の女性を呼び止めた。  振り返った瞳の色も、ジェトの目の色より深い青。どこからどう見ても、アレイオラ皇族の女性。  しかし。 『ジェト……私の姿や声は他の人に見えたり聴こえたりしないんだから、そんな大声出してると、また変な目で見られちゃうわよ?』 「そんなこと言われてもさぁッ! 一体全体どういうことよ! なーんで私が精霊機の操者なワケッ?」  ジェトはエステルの肩をがっしりと掴み、ガクガクと彼女の体を揺する。  エステルは精霊機に宿る(自称)精霊だ。精霊機の操者を選ぶ時など、稀に『御告げ』と称して人前に現れることもあるが、その存在は基本的に人の目に映ることは無い。  しかし、何故かジェトには常時エステルの姿が見えるし、話も出来る。五百年か千年に一人か二人くらい、そういう波長が合う(レア)な人間が現れる──とのエステル談。  最初、ジェトは周囲から独り言をぶつぶつ言っている危ない子どもだと認識されていた時期もあったようなのだが、慌てたエステルが姿を現し誤解を解いたため、以来ジェトは精霊と交流できる聖女候補の筆頭となった。  なのに! 「なんなのよこの突然の方針転換は! 聞いたことないわよ聖女と操者の兼任とか!」 『……まぁ、そもそも建国時の偉い人の方針で、操者は男、聖職者の長は女からしか選んでこなかったからねーアレイオラ(ウチの国)』  実は全然、そんな制限ないのよねー! と、エステルはあっけらかんと笑ったが、「知らないわよそんな情報!」とジェトは頬を膨らませる。 『まぁ、アンタには悪いと思ってるけど、こちら(・・・)もこちらで事情があるのよ』  エステルはにっこりと微笑み、ジェトの鼻先をツンッと弾いた。 『アンタの悪いようにはしないから。ネ!』
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