第三章 覚悟の毒薬

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「ありがとうございます! お兄様!」  帰宅早々バタバタと走り、自分の部屋に飛び込んできた妹を、クロイツはげんなりした顔で見上げた。 (アイツ……教えるなと言ったのに)  ──と、なんだか顔が語っているが、気にせずジェトは兄に飛びついた。 「ジャン様がとても褒めてくださっていましたよ! お兄様!」 「……そんなことはどうでもいい」  クロイツは寝台に腰掛けて、簡易机の上に書類や本を並べて目を通していた。その様子から察するに、彼が今手にしているものは仕事に関するものだろう。  兄はその体(動かない足と朱色の瞳)から表舞台に立てない分、乳兄弟である第二皇子(ジャンエリディール)の頭脳として、彼を支えているのだ。 「ジェト。机の上の小棚の、一番下の引き出しに小瓶があるから、持って来い」  お前にやる。と、素っ気なく言われて、ジェトは首を傾げながら言われた通りにした。 「お兄様、コレは?」  確かに、小瓶だった。白い不透明の陶器の容器に、少し長めの革紐がついていて、まるで携帯用の香水瓶のネックレスのようだったが──。 「──毒だ」 「……は?」  ジェトは絶句する。その様子に、クロイツは頭を抱えた。 「やはりお前は、覚悟が足らない」  ため息混じりに、兄は続ける。 「精霊機の操者であるお前の役割は、もちろん我が軍に勝利をもたらすこと。しかし、一番大切な役割はな、我が国の象徴たる精霊機を(・・・・)自分の命をかけてでも(・・・・・・・・・・)敵の手に渡さないこと(・・・・・・・・・・)だ」  だが──言葉を詰まらせながら、兄は目を伏せる。 「オレとしては、その……そういう(・・・・)ことにはなってほしくないわけだが……我が国の建国の伝承にもあるよう、精霊機抜きの状況で、お前の身に辱めを受けるようなことがあってはならない」  だからこれは護身用だ。と、兄は朱の瞳でじっとジェトを見上げながら言った。 「いいか、ジェト。いざという時以外は使うな。そして使う時は躊躇うな。必ず飲め」
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