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「ありがとうございます! お兄様!」
帰宅早々バタバタと走り、自分の部屋に飛び込んできた妹を、クロイツはげんなりした顔で見上げた。
(アイツ……教えるなと言ったのに)
──と、なんだか顔が語っているが、気にせずジェトは兄に飛びついた。
「ジャン様がとても褒めてくださっていましたよ! お兄様!」
「……そんなことはどうでもいい」
クロイツは寝台に腰掛けて、簡易机の上に書類や本を並べて目を通していた。その様子から察するに、彼が今手にしているものは仕事に関するものだろう。
兄はその体から表舞台に立てない分、乳兄弟である第二皇子の頭脳として、彼を支えているのだ。
「ジェト。机の上の小棚の、一番下の引き出しに小瓶があるから、持って来い」
お前にやる。と、素っ気なく言われて、ジェトは首を傾げながら言われた通りにした。
「お兄様、コレは?」
確かに、小瓶だった。白い不透明の陶器の容器に、少し長めの革紐がついていて、まるで携帯用の香水瓶のネックレスのようだったが──。
「──毒だ」
「……は?」
ジェトは絶句する。その様子に、クロイツは頭を抱えた。
「やはりお前は、覚悟が足らない」
ため息混じりに、兄は続ける。
「精霊機の操者であるお前の役割は、もちろん我が軍に勝利をもたらすこと。しかし、一番大切な役割はな、我が国の象徴たる精霊機を、自分の命をかけてでも、敵の手に渡さないことだ」
だが──言葉を詰まらせながら、兄は目を伏せる。
「オレとしては、その……そういうことにはなってほしくないわけだが……我が国の建国の伝承にもあるよう、精霊機抜きの状況で、お前の身に辱めを受けるようなことがあってはならない」
だからこれは護身用だ。と、兄は朱の瞳でじっとジェトを見上げながら言った。
「いいか、ジェト。いざという時以外は使うな。そして使う時は躊躇うな。必ず飲め」
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