第三章 覚悟の毒薬

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『あーナルホドねー』  誰かに見られると「はしたない」と怒られるのだが、ジェトはよく家の屋根に登り、星空を見上げていた。  そして時々、散歩をしているエステルに遭遇する。彼女と初めて会った時も、確かこんなシチュエーションだった。 「お兄様は信心深くてらっしゃるから。……ねぇ、エステル。あの建国の話って、本当なの?」  兄が心配しているのは、今に伝わるアレイオラ建国王の神話(ものがたり)。  かつて建国王の元には、彼に仕える美しく愛しい女騎士がいたという。けれども、彼女はフェリンランシャオの王に囚われ凌辱され、そして王の目の前で殺された──。  悲しみに暮れた彼は以降、自国の女性に武を司る職につくことを禁じ、彼の国を徹底的に憎み、彼女の仇を討つために侵攻を開始した──という物語。 『うーん、だいぶ尾鰭背鰭がついちゃってるけど、似たようなこと、は、うーん……あった……かしら……?』  なんともはっきりしないエステルの言葉。 『あーでも、捕虜の女騎士が悲惨な目に遭うってのは、結構よくある話みたいよ?』 「怖いこと言わないでよもーッ!」  ジェトがエステルの肩をポコポコと叩いた。 『まぁ、安心して。ジェト』  至極真面目な顔で、エステルはジェトを見つめる。 『なにがあっても、おねえちゃん(・・・・・・)が、貴女を守ってあげるから』 「う……うん……ありがと」  ジェトは少し照れながらそう言うと、「じゃあまた明日! おやすみなさい!」と言い残し、屋根にかけた梯子を伝って自室へと戻っていった。 『……おやすみ。ジェト』  エステルはそう呟くと、じっとある方角を、睨むように見つめた。 『……お膳立てはしたのだから、約束は、ちゃんと守りなさい』  誰もいない(くう)に向いそう呟くと、エステルの姿はフッと消えた。
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