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『あーナルホドねー』
誰かに見られると「はしたない」と怒られるのだが、ジェトはよく家の屋根に登り、星空を見上げていた。
そして時々、散歩をしているエステルに遭遇する。彼女と初めて会った時も、確かこんなシチュエーションだった。
「お兄様は信心深くてらっしゃるから。……ねぇ、エステル。あの建国の話って、本当なの?」
兄が心配しているのは、今に伝わるアレイオラ建国王の神話。
かつて建国王の元には、彼に仕える美しく愛しい女騎士がいたという。けれども、彼女はフェリンランシャオの王に囚われ凌辱され、そして王の目の前で殺された──。
悲しみに暮れた彼は以降、自国の女性に武を司る職につくことを禁じ、彼の国を徹底的に憎み、彼女の仇を討つために侵攻を開始した──という物語。
『うーん、だいぶ尾鰭背鰭がついちゃってるけど、似たようなこと、は、うーん……あった……かしら……?』
なんともはっきりしないエステルの言葉。
『あーでも、捕虜の女騎士が悲惨な目に遭うってのは、結構よくある話みたいよ?』
「怖いこと言わないでよもーッ!」
ジェトがエステルの肩をポコポコと叩いた。
『まぁ、安心して。ジェト』
至極真面目な顔で、エステルはジェトを見つめる。
『なにがあっても、おねえちゃんが、貴女を守ってあげるから』
「う……うん……ありがと」
ジェトは少し照れながらそう言うと、「じゃあまた明日! おやすみなさい!」と言い残し、屋根にかけた梯子を伝って自室へと戻っていった。
『……おやすみ。ジェト』
エステルはそう呟くと、じっとある方角を、睨むように見つめた。
『……お膳立てはしたのだから、約束は、ちゃんと守りなさい』
誰もいない空に向いそう呟くと、エステルの姿はフッと消えた。
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