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「究極の卵料理!?」
翔子は眉をひそめた。吉崎光子は嬉々として先を続ける。
「そう、究極の卵料理。年に一度だけ、ある秘密倶楽部の会員だけが食べることのできる幻のメニュー。会員は皆、超お金持ちの美食家なんだって。会員たちはその料理が目当てで、何百万もする高額な年会費を払ってるらしいわよ」
「たかが卵に何百万!? あ……それって……また都市伝説?」
翔子はゲンナリしてため息をついた。中年、独身、派遣社員の吉崎の唯一の趣味は、あらゆる都市伝説を調べて披露することだった。
「とにかく一度食べたらもう病みつき、完全に卵中毒よ。なんせ口にしたとたん、この世が極楽浄土に様変わりするってんだから!」
翔子の反応などお構いなしに吉崎がさらに身を乗り出す。その下品な振る舞いに翔子はさらに苛立った。ただでさえ今朝からひどく機嫌が悪いのだ。数百万円の卵料理などという出来の悪すぎる作り話で、貴重な休憩時間を潰されるのはまっぴらごめんだった。
「仮にその話が本当だとして、私たち庶民には関係のない話ね」
翔子は話を打ち切ろうとしたが、逆効果だった。
「と、こ、ろ、が、よ! 年に一度開かれる晩餐会には、必ず一人のゲストが招かれるの。私達みたいな一般庶民が。倶楽部に招かれた人間はタダでその幻の料理を食べられるってわけ。羨ましいと思わない?」
翔子は引きつった笑みを返しながら、心の中で毒づく。
いい年こいて都市伝説なんかにハマってるから結婚できないんだよ、ババア!
翔子の胸の内など知る由もない吉崎はさらに続ける。
「その幸運なゲストは、ある日、何の前触れもなく招待状を手にするの。封筒に差出人の記載はない。ただ宛名と卵のスタンプが押印してあるだけ。それを受け取ったら……」
「吉崎さん、話の途中で悪いけど、はっきり言って興味ないの。もう行くね」
席を立とうとした翔子の腕を、吉崎が強引にひっつかんだ。
「と、こ、ろ、が、よ! あたし見ちゃったのよ!!」
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