第三章 真珠襲来。

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第三章 真珠襲来。

 真夏を控えた、とある日曜日。       青雲寮の面々は、何もすることもなく、ダラダラと過ごしていた。  良い若者達が、彼女を作るでもなく、ダラダラと無為に日々を過ごしている。  不健康と言えば、不健康この上ない。  そんな不健康な青雲寮に、嵐が到来した。 「ピンポーン」 誰かが、青雲寮の呼び鈴を鳴らした。 「はいはーい、どちら様?」 青雲寮の玄関を、ガラガラと開けたのは、男鹿 創であった。 「あ!ハシメちゃん!お久しぶり。」 ハジメの目の前に、白いワンピースを着た、ロングの黒髪が色白の素肌に良く似合っている、年頃の少女が立っていた。 「お?真珠か?」 ハジメは、その少女をそう呼んだ。  少女はニッコリと笑うと、 「馬オバサンから、お裾分けを持ってきたよ。」 そう言うと、持っていた大きめのバッグを、差し出した。 「まあ、上がりなよ?」 ハジメはバッグを受け取りながら、少女を青雲寮に、招き入れた。  リビングのソファーに、少女を座らせると、冷たい麦茶を差し出した。 「ドヤドヤドヤ」 足音を響かせながら、数人の男達が、リビングにやって来た。 「おお!女の子がいる?」 男達の先頭に居た吉田兄弟が、驚きの声を発した。 「ハジメ!この娘は?」 ハジメは、スッと立ち上がると、少女の傍らに立ち、 「紹介します、この娘が話題の林 真珠ちゃんです。」 「うおぉぉぉ!」 奇妙な歓声が沸き上がった。 「コトッ」 紹介された少女は、立ち上がると、 「初めまして、ハジメちゃんの従姉妹で、林 真珠です。」 と、軽く会釈した。 「吉田 尊文です。」「善文です。」 吉田兄弟が、ユニゾンで挨拶してくる。妙に瞳を輝かせながら。 「おい!」 吉田兄弟の後ろから、野太い声で、吉田兄弟を押し退けて、一際ゴツイ男が前に出てきた。 「アイム三島幸助、ナイストゥミートゥ!」 そう言って、握手を求めた。  久し振りの女子の来客で、青雲寮は華やかになった。  全員がノリが軽い。  特に、吉田兄弟が弾けている。  他愛もない話を、長々として、 「あっいけない、戻らなくちゃ。ハジメちゃん、又来るからね。」 真珠は、そう言うとそそくさと帰っていった。  真珠が帰って、一段落して、 「ハジメェー、このヤロー、真珠ちゃん可愛いじゃねぇか!」 吉田兄弟が、ハジメに掴み掛かる。 「わわ、やめろ、尊文、善文。」 吉田兄弟が、抵抗するハジメを羽交い締めにすると、 「あんな可愛い娘の、知り合いがいるなら、何で紹介しなかった!」 激昂する吉田兄弟に、 「紹介するも何も、真珠は今17歳、お前らに知り合った時は、未だあの子は13歳、お子ちゃまだよ?」 そう聞いて、力の抜けた吉田兄弟の戒めから抜け出したハジメは、咳き込みながら、 「あの子に逢いたいなら、隣町の馬飯店に居るから。」 ハジメはそう言うと、そそくさと自室に引き上げた。    次の休みの日は、富士錦登山部の第一回登山ミーティングであった。  場所は高尾山。  朝七時に、高尾山登山口に集合。其処から徒歩で、一号路線を登坂。第一目標は、薬王院。其処で一時休憩の後、高尾山山頂へ。  そしてその日の夜営地、日影沢キャンプ場へ。  運良くキャンプ許可かとれたので、今日の運びになった。 「やや、集まったな?何人いるんだ?」 吉田兄弟が、驚きの声を上げる。  高尾山登山口に、富士錦登山部の腕章を着けた者が、二十人は居る。登山部は、役員の藤間部長と、緑町 静、三島幸助、吉田兄弟、そして男鹿 創。現行メンバーは、六人である。 「今日は登山部お披露目を記念して、富士錦社員有志による、記念登山なのである!」 吉田兄弟の後ろから、緑町 静が声をかける。  その日は、富士錦登山部と言うよりは、富士錦食品の社員有志による、一種のレクリエーションの場になった。 「あ?アレは?」 吉田兄弟が、群衆の中に何かを見いだして、声を上げた。  富士錦食品の社員達の中に、見知った顔を見付けたのだ。 「おいハジメ!アレは、真珠ちゃんじゃないのか?」 吉田兄弟の指差した方を見る、見覚えのある少女の姿が目に入る。 「ああ、今回の登山には、特別スタッフとして、真珠と馬オバサンが参加しているんだ。」 ハジメはそう言うと、 「おーい、真珠!こっち。」 と、遠くに居た真珠を、呼び寄せた。 「あ、ハジメちゃん、オハヨ。」 笑顔で、此方に掛けてくる。 「ああ、ツンちゃん、オハヨー。元気だった?」 真珠の後ろから、恰幅の良い中年のご婦人が、声をかけた。 「馬オバサン、ツンちゃんはやめてよ。今日はヨロシクね!」 ハジメは、そのご婦人に答える。 「尊文、善文、紹介しよう、こちらが馬 婦々。今日のスペシャルゲストです。」 「なんだ?何にも知らないのは、俺達だけか?」 吉田兄弟は、呆気にとられていた。 「今日の計画は、緑町さんの発案でね、俺が馬オバサンに声を掛けて、実現に漕ぎ着けた。」 「ええ?」 驚く、吉田兄弟。 「記念すべき第一回登山ミーティング、ちょっとしたサプライズが欲しくてな、ハジメを巻き込んで、色々計画したんだ。」 緑町 静が、吉田兄弟に説明する。 「さて、時間だ。藤間部長、出発しましょう。第二班の引率ヨロシク!」 「任せろ!」 そう言うと、藤間営業部長が集まっていた集団に声をかける。 「えー、お集まりの皆さん、富士錦登山部発足、特別登山に参加していただき…。」 藤間部長の、長い演説を奇妙な集団が大人しく聞いている。 「それでは、目的の高尾山山頂への、登山を開始します。」 そう言うと藤間部長は、大きめのリュックサックを担いで、歩きだした。  その後を、ゾロゾロと思い思いの格好をした集団が、着いていく。 「さあ、俺達は此方だ!」 緑町が、一号路を指差して、ハジメ達を促す。 「藤間部長達は?」 吉田兄弟が、二班に分かれて行動するのを、訝かしんだ。 「藤間部長は、一般参加者を引率して、ロープウェイで山頂へ。」 緑町は、山頂を見据えて、 「我々は、このまま一号路で、徒歩登山。あ、その前に、全員此のリュックサックを背負ってくれ。」 いつの間に用意したのか、大きめのリュックサックが、置かれていた。 「これも、サプライズの一つだからね。さあ、出発しよう。」 そう言って、リュックサックを背負い、一号路を登り始める。  登山部の面々は、そのリュックサックを背負って、緑町の後に続いた。  「そう言えばさあ、ハジメ。」 山道を登りながら、吉田尊文がハジメに聞く、 「あの馬婦々さんだっけ?お前の事をツンちゃんって言ってたけど、何、ツンちゃんって?」 「馬オバサンは、台湾出身なんだ。所謂在日華僑、だから広東語が、端端にでる。チャイニーズで、ハジメの創の字は、ツンって発音するらしい。」 「へぇ。」 どうでもいい事を話ながら、テクテクと一号路を、登って行く。 「因みに、真珠の事を、マオちゃんと、呼んでいるよ。」 薄ら笑いをしながら、ハジメは山道を登って行く。  山道を登ってお昼前には、山頂に着いた。  高尾山山頂には、富士錦の社員が、思い思いに寛いでいた。  富士錦社員の集まりの中に、簡易的な厨房を設えている数人がいた。  一人は、馬婦々。そして、林 真珠が、側にいた。更に、一生懸命その厨房で調理器具を設置している男がいた。 「あれ?ジャッキーさん?」 吉田兄弟が声を揃えて、その男の名を呼んだ。 「よう、やっと来たな!」 浅黒い顔に、真っ白な歯を光らせて、ジャッキー・オハラ・ンジラが、笑顔で出迎えた。 「何をやっているんです?」 不思議そうに、ジャッキーを見る吉田兄弟に、 「今日のスペシャルサプライズ、今日のランチは、現地で本格?町中華。さあ、皆、背負ってきた荷物を、此方に並べてくれ。」 ジャッキーへの質問に、後ろから緑町が答えた。  ナント、高尾山山頂で、食材調理して、昼食会を開催すると言う。  ハジメ達が、背負ってきた荷物の中は、富士錦食品が発売している、冷凍食品の品々。 「さあ、馬婦々、始めてください。」 「了解!」 中華鍋を片手に、ニコリと笑う恰幅の良い、中年の女性、馬婦々は、用意された食材を、手際良く並べて、 「マオちゃん、ジャッキーさん、テーブルと食器の用意ヨロシク!」 馬婦々は、真珠とジャッキーに指示を出すと、料理を始めたのだった。  流石は本職、大体の食材は自宅の調理場で、下拵えは済ませてあるが、手際よく食材を捌き、鍋に放り込んでいく。  元々冷凍品なので、調理の手間は省けるのだが、他の食材との兼ね合いで(全てを冷食で済ませるのは、馬婦々のプライドが許さないのか)、鍋に放り込む順番が難しいと馬婦々が、言っていた。  暫くすると、旨そうな町中華が、出来上がった。  それを真珠が、手際よく盛り付けていく。 「おお、うまそう!」 その場にいた、全員の口から、その台詞が飛び出した。 「さあ、皆さん、頂きましょう!」 音頭をとったのは、藤間部長であった。  簡易なテーブルに着いた、富士錦の社員達が、料理に舌鼓を打つ。 「旨い!」 口々にその台詞を口にし、笑顔がテーブルに、咲いた。  因みにメニューは、春巻きと、酢豚、シュウマイにギョウザ。町中華の定番メニュー。  メニューの大半は、富士錦の冷食なのだが、馬婦々はギョウザには拘りがあるらしく、三十人前のギョウザを、店の厨房で作ったのだと言う。  更に、冷凍食品をタダ温めるのでなく、一手間二手間加えて、別次元の料理に仕立て上げている。 「やあ、流石は本職。見事な腕前、感服至極。」 一仕事を終えて、寛いでいる馬婦々を緑町が、妙に讃えている。 「何おべっかして、何も出ないよ?」 馬婦々は、笑顔でそう言った。 「いやいや、おべっかなんて、単純に感激しているんですよ!」 緑町の、ヨイショとも言える賛辞に、馬婦々は顔を赤くして、お茶を啜った。  食事が済んで、皆がまったりとしてある時に、登山部員は食事の後片付けを、やっていた。  ゴミまとめて、簡易な厨房設備を片付けて、使った場所を綺麗に掃き清めた。  時間は三時を回って、富士錦の社員達は、荷物をまとめ始めた。 「では皆さん、帰路につきしょう。」 藤間部長が、何故か張り切って指揮を取っている。 「じゃあ、緑町君。僕は社員を駅に送っていくから、後はヨロシクね。」 そう言って、社員を引率しながら、ケーブルカーの駅へと向かうのだった。 「さあ、我々も出発しようか!」 緑町が、登山部の面々に、声をかける。ジャッキー等、装備班が持ち込んだ、調理器具やらなんやらは、そのままジャッキー達装備班が、担いで下山した。  其れを見送ると、緑町もリュックを担いで歩きだした。 「ジャッキーさん達は、あの荷物を駅まで運ぶんですか?」 不意に底抜けに明るい声が、後ろから飛んできた。 全員が、その声の方を振り返る、其処には長い黒髪を、三つ編みツインテールにした、年頃の少女が立っていた。 「え?真珠?何で?」 ハジメが、驚きの声を上げる。 「お前、おばさん達と帰ったんじゃ無いのか?」 「えへへへ、何だか愉しそうだから、付いて行くことにしたの。」 そう、悪びれずに答える。 「お前なぁ…。」 呆れているハジメに、 「良いじゃぁないか、真珠ちゃん。一緒に行こうよ!」 吉田兄弟が、真珠の方を持ち、同行を進める。 「ハハハ、知らぬ間じゃない、今日のキャンプ地へ、一緒に行こう!」 吉田兄弟のケツを持つ感じて、緑町が真珠の同行を、了承した。  改めて、富士錦登山部の面々は、今日の目的地、日影沢キャンプ場へと、歩きだした。  高尾山山頂から、日影沢キャンプ場までは、約9㎞。荷物を背負っていても、大人の足なら二時間ちょっとの山行である。  ワイワイガヤガヤしながら、富士錦登山部一行は、夕方には日影沢に到着した。  緑町が受付で、手続きしている内に、残る一行はサイトの夜営準備。手際よくテントを広げ、竈を準備。夕食の、支度に掛かる。 「で、ハジメちゃん。夕食のメニューは?」 真珠が、くったくの無い笑顔で、ハジメに聞いてくる。 「今夜のメニューは、山飯スペシャル!富士錦風さ。」 何故か自慢気に、ハジメが胸を張る。 「何威張ってだよ!メニューを考えたのは、俺達だぜ!」 吉田兄弟が、突っ込みをいれる。 「真珠ちゃん、今夜のメニューは、 特別仕様だから、楽しみにしていて!」 吉田兄弟は大ハシャギで 、そう言った。  暫く、たわいもない話をしながら、キャンプの支度をして、ふと気になった事が、ハジメの頭を支配した。  ハジメは後ろに振り返った。 「三島先輩、さっきから大人しいですね?」 其処には、黙々とテントを張る三島幸助がいた。 「ハハ、ブラザーハジメ、ドンウォーリー。」 ハジメの問い掛けに、カラ元気をふり絞るかのように、三島は声を出す。 「ははは、三島は週明けに、取引先と共同コンペがあるから、気になってしょうがないのさ!」 緑町が、三島の憂鬱の訳を話す。 「三島先輩、らしくないですね!今日くらいは、楽しく行きましょうよ。」 吉田兄弟が、場を盛り上げようと、矢鱈陽気に声をかける。 「待ってたわよ、ミドリン!」  ワイワイガヤガヤしている連中に、凛とした声が飛んできた。  皆が、声の方を見る。其処には、登山ウェアに身を固めた、畠山亜彩子が、立っていた。 「やあ、亜彩子さん。お早いお着きで!」 緑町は亜彩子を、笑顔で出迎えた。 「亜彩子さんも、キャンプに参加するんですか?」 ハジメが、驚いて声を出す。 「なに、ハジメちゃん、何かご不満?」 ちょっと怒ったような顔で、亜彩子は、ハジメを見た。 「いえ、別に…。」 ハジメは、ちょっと口ごもった。 「亜彩子さぁん、お久し振り!」 ハジメの後ろから、底抜けに明るい声が、亜彩子に飛んだ。 「あら、真珠ちゃん?ハジメちゃん達と、一緒だったの?」 亜彩子は、真珠を見つけて、ちょっと驚いた。 「面白そうだったから、付いてきたの!」 真珠は、くったくのない笑顔で、亜彩子を見た。  亜彩子は、緑町の方を見て、 「真珠ちゃんは、私が面倒見るから、夕飯の支度をして。」 そう言うと、 「真珠ちゃん、此方を手伝ってちょうだい。」 亜彩子は、真珠の手を引いて、テントの設営を手伝わせた。    登山部一行は、夕飯の支度で、大騒ぎである。日影沢キャンプ場は、焚き火OKだが、緑町は専用の薪ストーブを用意していた。  組立式の薪ストーブを、手早く組み上げ、緑町は易々と火をつける。  キャンプの醍醐味と言えば、焚き火である。特に、焚き火で暖を取りながら、その火で食事作る。キャンプならではの、趣向である。  緑町が、薪ストーブを用意したのは、火の始末が容易なのと、焚き火の後の掃除が楽だからである。 「よっしゃ、火が回ったぞ!鍋かけろ。」 緑町が、メンバーに声をかける。待ってましたとばかりに、ストーブに鍋を置き、富士錦製の冷凍食品を鍋の中に放り込む。 「飯盒の、準備はOKです。」 ハジメが、飯盒をかかえてやってくる。  その脇で、簡易テーブルを並べる吉田兄弟。  緑町が手際よく、ストーブに飯盒を掛けていく。 「後は、飯が炊ければ、御の字だ!」 緑町は、そう言いながら、テントと格闘している亜彩子の所に行き、 「亜彩子さん、真珠ちゃん、食事の支度が出来ました!」 と、二人をテーブルに案内した。 「あら、ミドリン。どうも、有り難う。ご馳走になるわ。」 紋切り型の返事で、ちょっと角が立つ感じに答える。  そう言いながらも、笑顔でテーブルに着いた。 「御待ちどう様、富士錦特性、山飯スペシャルでーす!」 吉田兄弟が、嬉々としておさんどんをする。  全員がテーブルに着くと、アルミの深皿に盛られた、料理を並べていく。料理のメインは、鱒のソテーに、クルミとキノコの餡掛け。山菜のお浸しに、チキンスープ。山の素材を中心に、チョイスした。メニューである。 「おお!意外に旨そうだ!」 緑町が、感嘆の声を上げた。 「意外とは、心外デスね。」 吉田兄弟が、口を尖らせる。 「まあ、まあ、では、頂きます!」 緑町の掛け声で、食事が始まった。辺りは良い感じに薄暗く、ストーブから漏れる灯が、キャンプの雰囲気を盛り上げている。 「おお!此のキノコのソースは、ワンダフルだな!」 暫く静かだった、三島幸助が、感嘆の声を上げた。 「フフフ、此のキノコのスチームシリーズは、わが社の新商品だ!それに、此のマスのソテーも、此の春に発売された、新商品!」 緑町が、胸を張って言う。 「此のキノコに、クルミを混ぜてソース風にしたのは、俺達ですよ!」 吉田兄弟が、更に胸を張って主張した。 「じゃあ、この山菜の御浸しは?」 ハジメが、山菜の御浸しを摘まみながら、吉田兄弟に尋ねる。 「此は、春先に地元のミタカヤマで採取した、露地物さ!」 「ミタカヤマって言うと、吉田兄弟が住んでいた、埼玉の?」 「そう!我が故郷の、貴重品さ!」 吉田兄弟が、ひっくり返りそうな程、胸を張った!  富士錦登山部一行が、ワイワイと食事を楽しんでいる。  相変わらず、吉田兄弟が真珠や亜彩子に、コナを掛けまくっている。 「よう、尊文、善文。」 緑町が、不意に吉田兄弟に声をかける。 「ナンですか?緑町さん。」 吉田兄弟が、ちょっと驚いた様子で、緑町の方を向いた。 「お前ら明日、タカミネ屋さんに営業だろ?」 緑町がそう言うと、「あ!」と言う顔をして、ちょっと項垂れた。 「スンマセン、お先に失礼します。」 そう言いながら、そそくさと帰り支度を始めた。 「明日は朝イチで、営業回りなので、これにて失礼します。」 今から下山すれば、終電には間に合う。と、緑町が後ろから声をかける。  それに片手を挙げて、答える吉田兄弟。其を見送る、富士錦登山部の面々。 「さて、食事も終わったし、お片付けして、リラックスタイムを楽しみましょうか?」 緑町が、その場をしきって、全員で食器を片付け、テーブルを片付け、ストーブの火を落とし、テントの用意をした。  亜彩子と真珠は、先にテントを張っていたから、登山部のテントの設営を、手伝った。  寝る前に、一台だけ残したストーブに、ヤカンを乗せて、お湯を沸かし、それでお茶を淹れて、全員で飲んだ。 「えー皆さん、本日は記念すべき第一回富士錦登山部ミーティング、無事成功の運びになりました…。」 緑町が、登山部員を前に、セレモニーを始めた。 「明日の朝は、割りと慌ただしく下山となりますが、節度をもって行動するように。」 と、説明した。
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