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数日前。
「私がバカだった。彼女を許して、信頼関係を築きなおすべきだったんだ」
関谷明人は祈るように組んだ手を倒して、テーブルに突っ伏して泣き始める。妻である和美は、内心でうんざりしつつも、打ちひしがれている夫にかける言葉を探した。
――前妻が悲惨な形で亡くなってしまった、かわいそうな夫にかける言葉を。
「そんなに自分を責めないで、彼女が死んだのは、あなたのせいじゃないわ」
「――でもっ! 彼女は体は弱かったんだっ! それを一番、よく知っていたのは私だったのにぃっ……」
「そうね。あなたの幼馴染だから、こんな結果になって心を痛めるのも分かる。だけど、彼女は最終的に不倫相手を選んだの。あなたがここまで、心を痛める必要なんてないわ」
「でもっ、でもっ、でもっ……。まさか、こんなことになるなんて」
あああああああっ……もうっ。
妻である和美の前で、再婚したことを後悔しているような夫の態度。まるで悲劇の主人公みたい振る舞い、大げさに嘆いてみせる明人の瞳には、もうなにも映っていない。
「ねぇ、明人さん。よく聞いて」
体が弱かったリホは、明人のような堅実な男性に庇護されないと生きていけないのだ。不倫をするような男と結婚するなんて、自らの寿命を縮める行為であり、結果、その通りとなった。
「リホさんはあなたの奥さんなのに不倫した。出会い系にハマって、不倫相手と再婚して、あなたの慰謝料と生活費を稼ぐために働いて」
インフルエンザに罹って、肺炎を引き起こして、血を吐き、もがき苦しみながら……死んだ。
「これは、彼女の自業自得で因果応報なのよ。あなたが気に病むことじゃないの」
どうして、わたしがこんな目に?
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