縁(えにし)

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「これで、解放されたと思ったのに」  すべてを語り終えた和美は、懺悔を終えた罪人のように項垂れた。  リホが死んですべてが良くなると思っていたのに、明人の心は死者に囚われて、彼の中でリホの存在が、日を追うごとに大きくなっている。  そして何度も夢を見るのだ、黒い人影が扉の前でじっと立っている夢を。  黒い影は和美が招いてくれるのを待っており、和美の方は断固として影を家に招き入れることはない。 「人の人生に介入すると、相応の代償を払います。私は占い師として、相応の覚悟で占っていると信じてください。あなたはまさに、人生の岐路に立っています」 「…………はい」  江西のありがたい言葉に対して神妙に頷く和美は、台座に支えられた水晶球の中で、黒い影が揺らめくのを見た気がした。 「あなたの選択する道は三つ。一つは、確実に幸せになる道――離婚して遠く離れた地で暮らすこと。二つは、確実に不幸になる道――このまま結婚生活を送り、都合の悪いことから目を逸らして、苦痛にまみれた人生を送ること」 「……」  予想外の薄っぺらい回答に、和美は恥を忍んでここに来たことを、猛烈に後悔する。こんなありきたりな解決方法をきくために、ここまで来たわけじゃないのに。 「そして最後の三つ目は、私でも予想が出来ない可能性の道――別れられないのなら、近い将来、あなたにとって耐え難いことが訪れます。ですが、ずっと目を(そむ)けてきたことを受け入れたその時に、旦那さまの背中を押してください。そうすれば、あなたから二人分の(えにし)の糸が外れます」 「目を(そむ)けてきたこと……」  占い師をしている時の江西はとても物静かで、流れに逆らえない運命に(じゅん)じる諦めと、透明なもの悲しさがあった。 「はい。その時が来たら、(おの)ずとわかるでしょう」  提示された可能性の道。  そんな日が、果たして自分に訪れるのだろうか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  夢を見る。  和美が扉を開けてくれることを、ずっと待っている黒い影。  夢の中の和美は【目を(そむ)けてきたことを受け入れて】影を家に招き入れた。  おかげで悪夢は見なくなった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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