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0101 殺人事件から始まった災難の旅
天気が悪くなった。
夜の船旅にとって決してよい兆候ではない。
出港の時に懸命に働いている半分の月も、チラチラと瞬いている星たちも、いつの間にか姿が消えてしまった。
夜空の美しい顔は穢れた霧のような影に蔽われた。
甲板にいる人々は、眩い灯光を浴びながら親しく会話を交わしている。光を失った夜空のうっとうしい気分はまるで遠いもののようだ。
このんな時にそこにいるのは一種の幸運かもしれない――一等船室の宴会ホールで、一件、あるいは「数件」の「不祥事」が発表されているから。
「そして、あの有名なアルディリーフ・ブリーチ様もいらっしゃいました、と言われています」
「ギャー!」
「続いてこのお方、アレックサンドラ・カストル様、別名『ブラックスワンのナイトメア』で広く知られているお方です」
「イヤー! そんな人も?!」
「そして、グラウディー様、エリザ王国出身と言われ、『ゴールデンシャドー』とも呼ばれているお方です」
「神様!」
黒い髭の船長の口から名前が出る度に、気絶する淑女がでる。
紳士たちの顔色は白から青に、また青から青白に変化しつづも、歯を喰いしばって崩れそうな体勢を立て直そうと努力している。
「そのため、緊急措置を取らせていただきました。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます」
先の一連の名前は、淑女たちを気絶させるほどの英雄でもアイドルでもなく、今夜、この船に乗り込んだ世界中の有名な犯罪者たちだ。
信じるものか。
世界中もっとも有名な18人の犯罪者は「本業」を放置して、この客船にパーティーでもしに来たの?
そのうえに、「この客船を我々の遊び場に選ばせていただきました。よろしくお願いします!」とご丁寧に「参加者名簿」まで送ってきたなんて。
いたずらに決まってる。
でも、私は淑女たちの相次ぎの気絶や紳士たちの彩りの顔色の変化を止めることができない。
船長は参加者名簿を読みあげる途中、隣の小柄の船員は何回も彼を止めようとしたけど、あの頑固な大男はやはり最後まで読み終わった。
「冗談じゃないわ! 18人ですって?!」
「きっと誰かのいたずらだ! こんなことはありえない!」
「そうだ! 俺たちを馬鹿にしてるのか?!」
案の定、乗客たちは騒ぎ立てた。
「皆様に正確な情報を伝えるのは私たちの役目ですが、情報の真偽について判断しかねます。ご了承ください」
船長は「参加者名簿」を収めて、一礼をしてからホールを出て行った。
彼の正直さに感心したけど、その気遣いの足りない口調と厳しい顔は、人々の不安を余計に煽いだのも事実。
平然としてディナーを続けられる人は、指で数えられる程度しかいなかった。
「いたずらのほかに、こういう考え方はありませんか? 船に乗った悪人はただ一人、私たちを惑わすためにわざとあのようものを送り出しました」
後ろの席の女性は震えているので、慰めようと声をかけた。
「そ、それでも大変ですわ。あのものたちは、どれも悪名の高い犯罪者だもの……」
「みんな、落ち着いてくれ!」
いきなり誰か大声をあげて、人々の注意力を引き寄せた。
「この事件は歴然とした陰謀だ! 俺たちを混乱させ、その隙を狙い、犯罪を実行するための罠だ! そんなこと、俺は絶対許さない!」
ある赤紫の髪を持つ少年は、ホールの真ん中で堂々と宣言している。
「誰?」
「どこからの子供?」
見事にホールを鎮めたのか、少年は自慢そうに親指で鼻を指した――
「俺様はフランディール帝国、皇帝陛下に直属する特別秘密探偵。国際犯罪者の追跡は俺の使命! 俺の名は……」
フランディール帝国、この船の終点のローランド共和国の隣にある裕福な大国。帝国として千年以上の歴史を誇り、その輝かしい芸術品を始め、経済、教育、法律、社会制度、それぞれの面で大陸の先頭を走っている。年が僅か二十歳のローランド共和国にとっては憧れる隣人で、目指す目標でもある。
けど、その国に特別秘密探偵がいるのは初耳だ。
それにあの少年、どう見ても信用できない……
「話の途中ですみません。犯罪者たちを追跡しているとおっしゃいましたが、なにか手掛かりでもありますか? 彼らは本当にこの船に乗り込んだのですか?」
ある若い紳士は少年の話を遮った。
「それは、まだ調査中だ……」
「では、なぜ陰謀だと断言できますか?」
「それは……」
少年は詰めた顔になった。
身分の真偽はともかく、こんな大勢の人の前で根拠のない主張を堂々と発表する勇気だけは認める。
「と、とにかく、俺を信じればいい! 皇帝陛下と我が祖国の名のもとに、俺は犯罪を止めるためにきたんだ! もう13年前の悪質な事件のようにならない! 俺の名を覚えてくれ――」
「ギャ――!!!」
外からの悲鳴は少年の自己アピールを断ち切った。
「ひ、ひ、人が――死んでる!!!」
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