眠れなくなる服

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日もそろそろ暮れる頃、僕は執筆中の小説のネタを探しに近所の公園を目指して歩いていた。 ふと薄暗い路地裏でおばあさんが何やら販売しているのが見える。 「眠れなくなるパーカー??」 少しくたっとしたパーカーにはそうポップがつけられていた。 「これ、どういう意味ですか?」 おばあさんに聞いてみる。 「そのままの通りでございます。」 これを着ると眠れなくなるのだろうか。 「おいくらですか?」 「1万円です。」 古着にしては高いか。 でもホントに寝ずに済むのなら安いのかもしれない。 寝る間も惜しんで執筆作業をしている僕にはそう感じられた。 コーヒーやエナジードリンクを飲んだって、どうしてもやってくる眠気には勝てないのだ。 それがもどかしくてしかたなかった。 「これ、ください。」 僕はそのパーカーを買った。 「お買い上げありがとうございます。乱用にはどうかご注意を。」 家に着くなり早速そのパーカーを羽織り、机に向かって執筆作業を進めた。 何時間経っただろうか、ぎゅるるとお腹が鳴りスマホの時計を見た。 丸1日、経っていた。 カーテンを閉め切っているせいで夜が明けまた日が暮れていたことに気づかなかった。 1日徹夜することだって辛かった僕が、全く眠さを感じずにいたのだ。 これ、ホントに眠らずに済むかも。 とりあえずお腹が空いた、ご飯を食べよう。 食後の眠気がくるのではないかと少し心配したが、それもやってくることはなかった。 眠る時間が勿体ないと感じていた僕にとって、このパーカーはすばらしいものだった。 これを羽織っていれば寝なくても済む。 頭が冴えた感じがずっとあり、執筆作業もさくさくと進んだ。 パーカーを買ってから1週間、小説が完成した。 僕はパーカーを羽織ったままで一睡もせずに過ごした。 未だ眠さなど全く感じない。 小説を編集さんに送り終わり、パーカーを脱いでベッドへ横になった。 途端、とてつもない睡魔に襲われ僕は眠りについた。 目を開けると見慣れない真っ白な部屋。 腕には点滴の針が刺さっていた。 通りかかった看護師さんが僕が起き上がったことに気づく。 「目を覚まされましたか。1ヶ月、ずっと眠っていらっしゃったんですよ。」 1ヶ月も… 乱用にご注意を。 おばあさんの言葉が蘇る。 1週間起きていることの代償は、僕にはとても大きいものだった。
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