新しい風

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 泣きたいのは真白の方なのに、綾菜が盛大に泣くものだから、真白はピッタリと泣き止んでしまった。  肌に温もりを感じた。初めて人の体温が温かいと感じた。今まで寝た男も、真白を襲った義父も無機質で冷たかった。  同じベッドの中で眠っても温かさを感じたことなど一度もない。亜純の隣はほんのり温かかったが、こんなにも近くに他者の温もりを感じたことなどなかった。  それに、とてもいい香りがした。男は汚くて臭くて嫌だった。どんなに香水で臭いを消そうとも、体の奥底から漂う獣臭を完全に消すことは不可能だった。  しかし、綾菜は違う。安心できる香りにほうっと夢うつつになる。むしろ安心というよりも、トクトクと脈が速くなるトキメキに近いものを感じた。 「私……真白ちゃんの辛い思いは理解してあげられない。想像するしかできないから」 「……うん」 「でも、好きな人に嫌われたくなくて怖い気持ちは私にもわかるよ。好きな人に幸せになって欲しい気持ちもわかる」  どうせ誰にも理解されることはない。真白はそうわかっていたけれど、綾菜の言葉は偽りなく真っ直ぐだった。だからストンと真白の心に一直線に届いたし、理解できないと言われたことも、わかると言われたことも全てが嬉しかった。 「……うん」 「私もね、男の人がダメなの」  ギュッと抱きついたまま、綾菜は言った。顔は見えないけれど、真白はそれでよかった。目を見つめて言葉を伝えられるよりも、綾菜の存在をこんなに近くに感じながら耳元で彼女の声を聞く方が心が安定する気がした。  真白は綾菜の言葉を聞いて、やっぱりか……と納得した。綾菜に対する嫌悪がなかったのも、好意を感じたのも自分の同じカテゴリーに分類するからだと知ることができた。
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