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「そうだね。会計はもうしたから帰ろう。私はタクシー呼ぶからお先にどうぞ」
亜純はそう言いながらスマホをバッグの中に戻した。
「ああ、そう。それなら先に帰るわ」
そう言って悠生は大股で歩き始めた。亜純もドアが閉まる前に部屋から出る。あとは帰るだけだ。そう思ったところで悠生がピタリと動きを止めた。
「そのまま警察行くつもり?」
そう言いながら振り返る。
「うん。全部話すよ」
「やけに自信ありそうだね。まあ、俺はお前の住所も知ってるからせいぜい気を付けて」
「こんな時でも脅すの? 大丈夫だよ。ゆうくんとの会話も私がシャワーを浴びてる間の音声も全部録音してあるから」
亜純は怯むことなく言った。悠生は目を見開くと「はぁ? ついに頭おかしくなった? そんなことができたらよかったけどな」とバカにしたように笑った。
亜純はもう一度スマホを取り出し、先程の音声を再生させた。血相を変えた悠生がそれを奪おうとしたことは言うまでもない。
「クソ女が! 何盗聴してんだよ! これ犯罪だぞ!」
掴みかかる勢いで悠生は手を振りあげた。それでも亜純は、恐怖よりも戦闘意欲の方が強かった。自分が悪くないものに関しては引けない。そう、自分の中のもう1人の自分が叫んでいるような気がした。
「取り上げても消しても無駄だよ。データは友達に送った。今頃友達が私を探してくれてるはずだから」
「……何してんだよ、お前。マジで頭おかしいんじゃないの?」
悠生は顔を歪めた。本気でまずいと思い始めていた。亜純がこの土壇場でここまでするのは完全に想定外だった。
亜純の性格を見誤った自分への後悔も募っていった。
「好きにすればって言ったよね? 警察行けよって言ったよね? 私は許さないよ。私を詐欺に仕立て上げようとしたことも、殴ったことも、脅したことも」
亜純は敵意を剥き出して悠生を睨み付けた。
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