愛情は感じるもの

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「口の中が血の味で気持ち悪いの。お願い」  亜純は必死に訴えた。先程まで気付かなかったが、時間が経って口元が腫れ上がっていた。血が滲んでいるのもわかる。  亜純を1人でコンビニへ行かせて店員に通報でもされたらそれこそ面倒だ。悠生はそう思って舌打ちをしてから車を降りた。  コンビニに入ったのを確認した亜純は、すぐにグローブボックスを開けた。中は綺麗に整理されていた。車内も綺麗に保たれているから、元々几帳面ではあるのだろう。  そこを漁って素早く車検証を探す。チラチラと店内を見張りながら、なんとか見つけるとそれをスマホで写真に収めた。  既に悠生はレジに並んでいた。悠生の前に1人客がいる。平日の夜だからか、店員は1人で対応しているようで、悠生は前の客が会計するのを待っていた。  亜純は、焦らず几帳面な彼が気付かないようしっかりと元に戻す。中身は後で確認すればいい。とりあえず、証拠となりそうなものは押さえられたのだ。  それから忘れ物がないか確認すると、そっと車を降りた。ドアを閉める音で気付かれないようギリギリまでドアを閉め、一気に押し込んだ。  パタン、と小さく音を立てて車のドアが閉まる。亜純はコソコソと車の後ろに回ってから一気に走り出した。  住宅街に入ってから悠生にメッセージを送った。 『母から電話がきたので、外で電話してるね』  送信したのを確認してから、千景のトーク画面を見るが、既読の文字は確認できなかった。一旦戻ると美希からもメッセージが入っていた。 『亜純先生、お疲れ様! あのね、言いにくいんだけど、亜純先生の彼氏のことで話があるの』  その文章を見て目を丸くさせた亜純はすぐに美希へと電話をかけた。 「あ、もしもし。亜純先生?」  数回呼び出し音が鳴って美希はすぐに電話に出た。どうやら焦っていたようで、「繋がってよかった」と安堵の息をこぼした。
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