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亜純はこれまでの経緯を簡単に説明した。殴られた事も、逃げ出してきたことも。
おそらくあの男は、亜純を探し回るだろう。家まで送り届けるのが警察に被害届を出さない条件だったのだから。
しかし、このまま戻れば今度こそ何をされるかわかったものではない。身元はわかったのだからこれ以上関わる必要はなかった。
「じゃあ、亜純先生1人でいるの?」
「はい。とりあえずもう少し様子を見て」
「なに悠長なこと言ってんの! 場所教えて! 迎えに行くから!」
美希は、亜純以上に興奮していた。事情を知った今、美希だってこのまま何事もなかったかのように安眠などできるはずがない。
この後、亜純に何かあったら危険を知っていて放置したことになるのだから。
「で、でも美希先生……」
「いいから! なんかあってからじゃ遅いんだからね!」
亜純は迷ったが、悠生に見つかるわけにはいかない。そう思い、美希の好意に甘えることにした。
現在地で住所を調べ、美希に送ると亜純はようやく呼吸ができた気がした。
メッセージアプリには、悠生から何度も着信がきていた。美希との電話中だったため、着信の履歴だけが残っていた。
更に『どこにいる?』『送ってくから電話出て』とメッセージも入っている。文章は証拠として残るからか、攻撃的なメッセージは残していない。そういったところも、確信犯だと思えた。
亜純は暫くそこでじっとしてから、コンビニの駐車場まで戻り、そっと覗いた。そこには悠生の車はなかった。車で探しに行ったのか、あるいは逃げたと思って亜純の家に向かっているのか。
どちらにせよ、このまま見つからないよう慎重に行動しなければならないと思った。幸いだったのは、亜純が免許証や保険証を持っていなかったこと。
以前、長財布を使っていた時にはカード入れが多く、身分証明書もそこに入れておいたのだがその財布は依からもらったものだったため、新たに財布を買い替えたばかりだった。
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