愛情は感じるもの

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 亜純の話を聞いた後、千景は警察も産科も行くなら付き合うと言った。自宅で仕事をしている千景は、時間を作ろうと思えば作れるのだ。  亜純の時間に合わせ、亜純がしっかりと状況を伝えられるよう傍にいると言ってくれた。 「ありがとう……。でも、さすがに産科までは……」  亜純は躊躇った。妊婦も多いだろう産科へ男性の千景と一緒に受診し、アフターピルを貰うだなんて患者の視線が千景に向いてしまいそうで気が引けた。 「亜純が嫌ならクリニックの前で待ってるよ」 「それなら心強い……」  たった1人で産科へ行くのは怖い。でも近くに千景がいると思えば勇気を持つことができる。まさか結婚もしていないのに避妊具をしないことがあるなんて思わなかった。  そういう男性もいるということを心に留めておかなければと反省した。 「大丈夫だよ。なんかあっても傍にいるから」 「ありがとう……。私、恋愛ってもっと簡単にできると思ってた。だって皆普通に彼氏がいて、別れてもすぐに新しく彼氏ができて、結婚したら子供も生まれて……そういうこと、普通にできると思ってた」 「うん……」 「でも私は……結婚しても子供はいらないって言われて、好きになった人は詐欺師で、そんな人との妊娠には怯えて……全然上手くいかない」  亜純は、恐怖とは違う涙が溢れた。結局自分で恋愛することもままならなかった。誰かに仕組まれた恋じゃなくて、自分で行動して恋がしたい。そう思ったのに、結果は真白と依によって与えられた結婚よりも酷いものだった。 「そんなもんだよ。他人から見たらよく見えるじゃん。亜純と依だって、他人から見たらいい夫婦だった。未だに別れる必要なかったじゃんって言われることもあるでしょ?」 「うん……」 「でも亜純にとっては依との関係は継続できない理由があった。それは他人には理解し難いものかもしれない。それと同じで、他の人だって亜純には見えていない恋愛の悩みがきっとたくさんあるよ」  千景は皆一度や二度恋愛の失敗くらいするものだと亜純を慰めた。
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