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帰宅してからも真白は暫く夢見心地だった。こんなに楽しいと思えたのは何年ぶりだっただろうかと思い返す。
楽しいと思えた出来事にはいつも亜純がいた。そんな亜純も散々傷付けて、許されないまま逃げるように去ってしまった。
今頃何してるかな……とふと考えた。依は亜純から離婚届を突きつけられていると言った。その後どうなったかわからないが、あの亜純が自分の意見を曲げることはないだろうと思えたし仮に離婚を踏みとどまったなら、真白の元に連絡がきただろうと思えた。
真白は距離を取っても亜純の連絡先を消すことまではできなかった。優しい亜純のことだから、ちゃんと話がしたいと言ってくれるかもしれない。そんな淡い期待も抱いた。
しかし、いつまで経っても既読はつかず、当然着信もなかった。真白は2ヶ月前、ようやく亜純の連絡先を消し、スマホも新規で変えた。
亜純に対する罪悪感は消えない。この先ずっと恨まれ続けるだろう。それでもいつか自分と顔を合わせるかもしれないと不安になりながら暮らすよりはずっといいと思えた。
きっとお互いに忘れることはできない。夫の依が近くにいる限り、亜純の中で真白の存在は消えない。それでも亜純がまた笑えるように、今度はお節介などなくても自分で幸せを掴んでくれたらいいなと思えた。
同時に真白はふと思う。亜純のことを傷つけた自分がこんなに幸せな気持ちになっていいんだろうかと。好きな人の側から離れたのだって自分への戒めでもある。
亜純がまだ傷付いて前に進めずにいるかもしれないのに、自分ばかりが楽しい日々を送っていいのかと苦しい気持ちになった。
スマホが鳴って綾菜からのメッセージが届いた。
「今日は本当にありがとう! またすぐ会いたい」
可愛い絵文字がつけられていて、綾菜の笑顔を思い出した。
「……私も会いたい」
真白は呟きながら視界を滲ませた。また会ってもいいのか、突き放したらいいのかわからなかった。今突き放したら綾菜まで傷付けてしまう。せっかくこんな自分と仲良くなりたいと言ってくれたのに。
でも綾菜の気持ちを受け入れたら、亜純の気持ちを踏みにじる気がした。
真白はじっとスマホの画面を見ながら綾菜への返信をできずにいた。
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