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真白が勤務を終えて外に出ると、綾菜がポツンと立って待っていた。話をする時間をもらったのだ。
真白は自宅へと綾菜を誘った。決して高収入とは言えない真白の家は、なんの変哲もないオシャレとはかけ離れたアパートだ。
けれど、カフェやファミレスで話す気にはなれなかった。ずっとずっと誰にも言わず、隠し通してきた過去だ。なんの接点もない誰かに聞かれたくはなかった。
「オシャレなマンションとかじゃなくてごめんね。適当に座って」
真白はそう言ったが、綾菜は心做しか嬉しそうだった。これからどんな話が待っているのか不安な中、それでも真白の自宅に来れて嬉しかったのだ。
「ううん……。可愛いものいっぱいで凄く好き」
キョロキョロと見渡す綾菜に、真白は思わず頬を緩めた。安いアパートだが、部屋の中は真白なりに綺麗に整えていた。
収納も少ないが可愛らしい小物入れを工夫して重ね、真白好みのレイアウトに仕上がっていた。
真白が飲み物を用意して綾菜と向かい合って座る。小さなテーブルを挟んでラグの上に2人膝をつき合わせた。
「綾ちゃん、返信できなくて本当にごめんね。嫌いになったとか、迷惑だったとかじゃないの。それだけはわかってほしくて……」
真白はとりあえず心から謝罪をした。本心を言えば、綾菜とはこれからもずっと仲良くしていたいと思っていた。
これでさよならは嫌だと綾菜が言ったように、真白もこのままでは終われないと覚悟を決めた。
「それが聞けただけで嬉しい……。嫌われてたらどうしようって思ったから」
「ううん。本当はね、一緒に出かけた日が楽しくて幸せだったの。でも、こんなに幸せでいいのかなって思ったら急に怖くなって……」
「なんで? 私も凄く楽しくて幸せだよ? 真白ちゃんは怖いことがあるの?」
綾菜は真白以上に不安気な表情を見せた。真白は一呼吸置いてから「あのね……」と少しずつ過去のことについて触れた。
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