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亜純がいなくなってから毎日が退屈だった。家事は嫌いじゃなかったのに、自分のためにやろうとは思えなかった。
洗濯物も1人分なら毎日洗う必要はないし、食事もテイクアウトでいい。風呂もシャワーだけでいいから前日に浸かった浴槽は洗わないまま水垢がこびり付いていた。
亜純と家事を一緒にやっていたから、負担は半分だった。それが2人分から1人分に減ったにもかかわらず、余計に大変になった気がした。
生活が何もかも変わった。これからずっとこんなふうに過ごすのかと思うと気が病んだ。
ぼーっと1人きりで過ごしていると、千景からの着信に目を開く。暫くずっと音沙汰なかったのにようやく連絡してきたかと思いながら電話に出た。
「おー、どうした?」
依は、亜純に私物を渡した時の反応はどうだったかと聞きたくてうずうずしていたが、平然を装った。
そっとしといてやれと言われた相手だ。いい反応だったのなら、きっと亜純の方から連絡してきたはず。それがないということは、そういうことだとわかってはいる。
それでも少しでも自分との思い出を語ったりしたんじゃないかと期待する。
「依に言っておかなきゃいけないと思って」
千景の声はとても静かだった。改まってどうしたのかと思いつつ、そんな言い方をするからには亜純のことではないかと勘ぐる。
しかし、なぜかそんな時に限って実はいい知らせ何じゃないかと軽く心を弾ませた。
「亜純のこと?」
「ああ、うん……」
「そういえば、俺が渡した荷物は亜純に渡してくれた?」
「渡したよ。ちゃんと渡した」
「うん。それで?」
その後どうなったのかと気持ちが逸る。あわよくば亜純に会えるかも……なんてことまで考え始めた。けれど、千景から「亜純と付き合うことにした」と言われた瞬間、頭が真っ白になった。
「……は?」
「亜純と色々話をした。その中で、お互いにこれからも近くにずっと一緒にいたいねって話して、付き合うことにした」
「え? ちょっと待って。意味わかんねぇけど」
「だから、俺と亜純は今付き合ってる」
ハッキリとそう告げられて、ようやく理解できた。そして依の期待は見事に打ち砕かれた。
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