五千円札は戻ってくる

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 時は過ぎ、会社は冬期休暇に入った。  帰省するなり、おふくろが「山羊小屋の近くに面白いのが生えているから、見に来な」と言うので、山羊小屋に向かった。 「何だあれは!」  山羊小屋のそばに一本の木が生えている。樹高は低く、(また)ごうと思えば跨げる程度の高さだ。葉は深緑色で、光沢と厚みがあり、椿(つばき)山茶花(さざんか)のようだ。これだけだと、庭によく植えられている椿や山茶花、もしくはその仲間の木々だと思うかもしれない。実際、実家の庭にもいくつか植わっている。  けれども、咲いている花は何だ。  花の直径は見たところ十センチ以上ありそうだ。大振りといえば大振りだが、おかしな話ではない。  しべはその辺の山茶花と大差ない。変なのは花びらだ。  ベージュの下地に黒や紫等の複雑な模様がある。  どんな模様をしているか、離れているとよくわからないので、顔を近づけてみる。 「なっ……!」  驚いた。  花びらの模様は五千円札に印刷されている文字や肖像画等にそっくりだ。  恐る恐る花びらの一枚一枚を観察してみる。一重咲きなので見やすい。  一枚の花びらに「YU311031E」という文字のような模様があった。 「うわーっ!」 「どうしたんだい!?」 「いや、何でもない。あまりにも変な模様だったから驚いただけ」  おふくろにはそう答えたが、何でもないわけがない。五千円札の執念、あるいは怨念のようなものが感じられる。  金のなる木という植物があるが、それは全く別の植物。こんな呪われた山茶花のような植物では、断じてない。  いっそのこと、成長しきっていない今のうちに引っこ抜いて燃やしてしまおうか。  いや、燃やしたところで灰の中から新品の五千円札が出てきそうだ。それこそ不死鳥のように。あるいは、残った根っこや落ちた小枝から、生えてくるかもしれない。五千円札の花が咲く木が。  い、嫌だ……  一体、どうするべきなのだろうか。
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