プロローグ

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プロローグ

 走り始めてどれだけの時が過ぎただろうか。無限に続くような新宿駅の地下通路を、人目もふらずに駆け抜けていく。 「どけ……どけぇ!」  今の彼にもはや安住の地はない。誰も彼もが自分のことを指さす。ある者はせせら笑い、ある者は眉間に皺を寄せた。そして皆の持つ手には、新聞。そこには、自分の写真が大々的にあしらわれている。壁にも、床にも、柱にも、その新聞がどこまでも貼り付けられていた。 「ここまで来れば……」  シャッターの閉められた人気のない通路で呼吸を整える。 「いたぞ!!」  向こうからの掛け声とともに、通路の照明が灯される。顔が見えないおびただしい数の人。目もなく、口もなく、ただ唸りながらこちらに押し寄せてくる。 「く、来るな! やめろぉ!」  はたと気が付いた。群衆の遥か向こうに立つ1人の小柄な少女。自身の目よりも遥かに大きな眼鏡を通じてこちらを覗き込んでくる。 「あ! おい、そこのお前! 早く助けろ。聞こえないのか!? 早く―」 「へっ……へへへ!」  不気味な引き笑いに彼の顔から血の気が引いていく。 「お前……お前は……!」  怪物のような群衆は一斉に彼へと飛び掛かった。 「あ、あ……あああああああああああああ!」  群衆によって彼は埋もれてしまった。最期まで伸ばし続ける右手。それが光を手にすることは、永遠に訪れないのだった。 「……ああああああ!! あ? あ……あれ?」  という夢を見た。
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