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そこは見慣れたマンションのベッドの上だった。遮光カーテンから零れる陽の光が、飲みかけのワイングラスとチーズの欠片を照らす。頭が痛い。
「何してたっけ、昨日……?」
クラブで女と意気投合したのまでは覚えている。確か同じタイミングで店を出た。そこから先の記憶がすっぽりと抜け落ちている。今となってはどんな女かすら思い出せない。
ふと、自分の寝ていないところに温もりを感じた。誰かもう一人いたということか。
「マジか……お持ち帰りしたってこと?」
実に口惜しい思いが押し寄せる。そこまで行ったのに、素面の自分がそれを覚えていないとは何事だろうか。
「あー、会社行くのやめようかな」
タブレットを開き、ネットを漁る。
「ハハハ! この動画おもしろ……あ」
夢にあったような、自分の写真が出てくるようなことはない。出てくるのは、せいぜい父親の写真だ。指が止まる。
「ったく、また親父の顔見ちまった」
画面を閉じ、着替えを取りに向かう。
「シャワーしてから考えよ」
時刻は午前10時。神山モータース専務・神山蓮の朝は遅い。
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