『愛執の罪』とは

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『愛執の罪』とは

薫の君様は、明石中宮様から私が「横川の僧都に助けられたようです。僧都に聞けば詳しく分かるはず」と聞かれたようです。 薫の君様は小君(私の弟)を連れて横川に向かい、僧都から、私を見つけてから仏門に導くまでの経緯をきいたそうです。僧都は、僧侶としてなすべきことをしたと説明してくださいました。 それでも薫の君様は、「浮舟に会いたい」と僧都に頼まれ、僧都様も罪造りになるのではと悩みつつお手紙を下されたのでした。 私の元に薫の君様から遣わされた弟の小君が来て、僧都の手紙を差し出しました。 「…過去世からのご縁を大切に、薫様の『愛執の罪』を晴らしてあげなさい。…これまでのように仏縁を求めていきなさい」とありました。 過去世からのご縁とは仏縁のことか、薫との縁か、どちらともということか。 『愛執の罪』を晴らす、とは…。 「母君様とはお会いしたいです。 ですが、過去の事には関わらぬと思い定めましたので、誰にも私の事はお知らせ下さいますな」と伝えました。小君は薫の君様からの文も差し出しました。 「あなたの重い罪は僧都に免じて許しましょう。 この小君をあなたの形見として側に置いています」 と。 私は罪を犯しました。匂の宮様との恋に溺れたのは、愚かな振る舞いでした。 ですが、それは私ひとりの罪なのでしょうか?薫の君様も匂の君様も拒むことなどできはしなかったのに… いまさら、薫の君様に許しを請い、 庇護していただこうとは思いません。 弟(小君)は「ただ一言でも」と懇願しましたが、私は返事をしませんでした。 小君の帰りを待ちわびていた薫の君様は、不本意な報告に愕然とし、 “他の男が浮舟をかくまっているのだろう”と呟かれたとか。 それを後に漏れ聞いて、 (私の心など男君に分かりはしないのだ。)と思いました。
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