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貴公子からの求愛
縁談が破談になり、男君を迎えるはずの部屋も取り上げられ、私は追い出されました。
それを聞いた姉上様(中の君・八の宮の次女)が気の毒に思って、御自分の住む二条院に住まわせて下さることになりました。
二条院へ行った翌日、突然、見知らぬ男が部屋に入ってきて、慣れた様子で私を口説くのです。驚きました。
女性が住まう家の奥まで見知らぬ男が入って来るなど有り得ません。
成人した女性は、親兄弟でさえも姿を見られることのないようにしているのに、なぜ?
その方は、姉(中の君)の夫、匂の宮様でした。
このままでは、姉上様にご迷惑をお掛けすることになります。止むなく二条院を出て造りかけの粗末で小さな
「三条の家」で、隠れるように暮らすことになりました。
それなのに、ある秋雨の降る宵過ぎ、その三条の家の門を叩く者が…。冷たい風とともに芳香が漂ってきます。
訪ねてこられたのは、光の君(光源氏)の御次男薫の君様でした。
薫の君様は、
「宇治(八の宮の山荘)でお見かけしてから、恋しく想っておりました。」
と強引に部屋に入ってこられました。私は逃げる術もなく、薫の君様と一夜を共にしたのでした。
翌朝、私は薫の君様に抱き上げられ、
何も聞かされないまま車に乗せられました。行き先は「宇治」のようでした。
姉上様たちへは宮様の姫と大切に扱われていたと聞くのに、私には思いやりや躊躇いは全く感じられません。
私の心を無視なされ、このような扱いをされる。宮様の血を引いていても、所詮軽い身分の者と蔑んで、妻ではなく密かな愛人にしようとされているのだと哀しくなりました。
「必ず来るから、都の姫らしくなるよう、それまで手習いをして待っていてください。」
そうおっしゃって、三日も経たぬうちに都にお戻りになりました。
案じた通り、薫の君様はお出でになりません。私は、また見捨てられたのです。この宇治で独り淋しく朽ち果ててゆくのだと諦めた頃、男が暗闇の閨に躊躇いもなく堂々と入ってきました。薫の君様がお出でになったと思いました。
しかし、その方は匂の宮様だったのです。暗闇の中、薫の君様の声色を真似て女房をだまして寝所に入られ、東国育ちの私は、薫の君様の芳香と、匂の宮様が焚きしめている香りの違いが分からず、逃げそびれてしまいました。
匂の宮様は、姉上様(中の君)の夫。
恩を受けている姉上様を裏切ることになり、私は衝撃のあまり、泣き崩れてしまいました。
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