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揺れる想い
「私は、二条院であなたに会って、忘れられず探していたんだよ。
薫の君が宇治に隠し住まわせていると聞いて、やっと来られたんだ。」
そう、匂の宮様はおっしゃり、日が高くなってもお帰りになりません。
私は、困ってしまいました。
薫の君様の時のように匂の宮様の洗面の介添えをしようとすると
「恋人なんだから、女房の仕事なんてしないで」
とおっしゃるのです。
“恋人”…
その様な言葉をかけられたのは初めて。ひとりの女人として愛して下さっている…
それがとても嬉しく思いました。
薫の君様は、端正で風格を備えていらっしゃいますが、匂の宮様の美しさは、
情熱的で気品がありました。
匂の宮様は、寄り添う男女の絵を上手にお描きになり、
「あなたのように愛らしくて、魅力的女(ひと)には今までに逢ったことがないよ。いつもあなたと、こうしていられたらいいのに…」
とおっしゃり…、嬉しさと申し訳なさで涙が溢れました。
片時も離れず一日を過ごして、匂の宮様がお帰りになる頃には、私の気持ちはすっかり宮様に傾いてしまいました。
薫の君様に申し訳ないと思いつつも匂の宮様恋しさに離れがたい切ない想いが迫るのでした。
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