行方不明

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行方不明

朝 宇治の山荘では私の姿が見当たらず、皆が捜し回って大騒ぎになっていました。 事情を知る女房たちは「身投げをなさったか」と思い、母も何かを感じたのか 「明日にでもあなた(浮舟)を京に迎えましょう」と文が届いたそうです。 匂の宮様は、いつもと違う文に胸騒ぎがして使者を遣わしてこられましたが、 使者は「浮舟が急死した」と聞かされるのみ。 激しく降る雨の中、母が宇治に来ました。 女房たちから 「母君にはありのままを話しましょう。今は世間体だけでも取り繕わないと」と事の次第を聞かされ、母は 「せめて亡骸だけでも捜し出して葬送を…」と願いますが、 入水自殺したのを世間に知られてはまずいと女房たちは反対し、脱ぎ捨ててあった衣や敷物を葬送の車に運び入れ、火葬にしてしまいました。 その後、薫の君様は久々に宇治を訪れ、 女房から浮舟失踪の真相を聞かされ、 「それほどまでに苦しんでいたのか…。 私の過ちで死なせてしまった」と後悔されたそうです。 でも、初めから薫の君様は、私を通して別の方を見ていました。恐らく相愛しながらも結ばれなかった亡き姉上様(大君)のことを…そのことを、私は感じて哀しかった。 だから、私自身を愛してくださる匂の宮様に惹かれたのです、きっと。 薫の君様は、私の四十九日の法要を盛大に行ったとか。しかし、それが何になるのでしょう。私の為ではなく御自分の心を慰めることでしかないと思うほど心は冷えていました。 悲しみにくれていた薫の君様と匂の宮様も、日が経つにつれ元の浮気な性分に戻られたようです。 匂の宮様は、以前のように他の女性に言い寄っていらっしゃるとか…。 薫の君様は、私の遺族の面倒を見てくださっていましたが、蓮の花盛りの頃、女一の宮(正妻・女二の宮の異母姉)を垣間見て、強烈に魅了されたとか…。 私への熱烈な求愛など忘れ… 私は何の為にあれほど苦しまなければならなかったのでしょうか。
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