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何を求めて
意識の戻った私は、起き上がって食事ができるまでに回復し徐々に記憶を取り戻しました。
都へ行く途中で小野の里に立ち寄った横川の僧都に、「尼にしてほしい」と私は懇願しました。しかし、
「そなたは若い身そらではないか。
今の決意が固いといっても、年月たてば揺らぐもの」
とすぐに応じてくれません。
当時の出家は、身分高く、経済的な後ろ楯があるか、非常に学問に秀でた人がすることで、無学で経済力のない若い女性が出家するなどなかったのです。
「幼い頃から悩み苦しむことが多く、生きている意味がわかりませんでした。
若い女の身でひとりで生きていくことは難しいでしょう。
一度は捨てたこの命を、僧都様に救っていただきました。ですから、これからは己の幸せのみを思うのではなく、仏の道を学びながら何かの役に立つ人になりたいのです。どうかお聞き届け下さい…」
「仏道一筋に、との決心は、仏さまがお褒めになること。
僧侶の身として反対できることではない。出家の願い、確かに聞き届けよう」
僧都は心を動かされ、弟子に私の髪を下ろすよう命じて下さいました。
私は尼削ぎの姿になり、初めて晴れやかな気持ちになりました。
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