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割れたタマゴ
そして赤いタマゴが割れた先では、ひと騒動起きていた。
「さよなら! もう貴方にはついていけない。子どもが生まれたら一人で育てるからいいわ。向こうの女んとこに行けばいいじゃない!」
「この間のことはもう謝っただろうが! いつまでも引っ張ってんじゃねぇよ」
ちょうどそこでは夫婦喧嘩の真っ最中。浮気性な夫との万年なやりとりに、妻が一歩踏み出したところである。
キャリーケースを引き、ポストの前で妻が夫に突きつけたのはまさしく離婚届。赤いタマゴはその真上で割れた。
サーーッと空が静かに赤色に染まっていく。二人の頭上は餃子の皮を被ったように、まぁるく赤色がのしかかる。
「何なんだ?」
「ちょっと何よ、これ」
すると苛立ちをぶつけ合っていた夫妻の口調に優しさが舞い降りる。
「クミコ……。悪い、俺が悪かった。これからクミコと生まれてくる子どもを大事にする。約束する。俺にはクミコと子どもが大事なんだ。他に何もいらない」
「あなた……」
このタマゴみたいな赤い実をつける植物は、オンリーワンを告げる〝アイラブ草〟という。先輩は彼女との関係を良くするために、この草花を手に入れた。ダイヤモンドがつまっていると言ったのは、四月生まれの彼女のことを指していた。
もしタクロウのところで赤いタマゴが割れたなら、矢部と愛を育んでいたのかもしれない。
了
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