一年草

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 風情のある旧き良きアパート。いやいやいや隠れ家にするには古き良きアパート、それが正解。〝人目につかずこっそり〟が似合うこのアパートが、安さに比例してボロくて良かったと改めてそう思う。  神田タクロウ。二十三歳。俺は最近人目が気になって、キョロキョロと見回す癖がついた。 なぜなら俺は今、ヤバいものを栽培している。  どこから仕入れてきたか? そりゃバイト先の先輩、吉池さんからだ。正確に言えば忘れ物ってやつ。『お疲れさん』とカバンを持って出てったあと、俺は椅子の上にクタッとした緑のやつに目が留まったわけよ。これは! と瞬時に悟ってサッとしまったね。だってもしかしたらこれは、先輩がコソコソと話してたアレかもしれないから。  俺はそれを持ち帰り、栽培キットを百均で揃えて早速植えてみた。次の日は幸い休みだったこともあり、友達の矢部を家に呼んで植物を観察することにした。こいつは中学んときからの友達で、アウトドア派じゃないから安心なやつだ。
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