2/3
前へ
/20ページ
次へ
 冬休み中によく考えておく、と言っていたが翌日すぐに進路相談(仮)をしに職員室へ行った。十二月に入り冬休みまであと一週間のため、あと二、三日でこの不思議にはケリをつけたい。  着信音が鳴ったのはクラス担任のデスク近くだった。あの時の私の音の定位が間違っていなければ、音はやや下の方から聞こえてきた。調査範囲が絞れたのはとても大きい。デスク下やデスク同士の隙間を調べれば、何か見つかるかもしれない。  担任と話をしつつも、若干俯きがちでデスク周りを観察する。希望進路は文系、国公立で、もし無理そうなら私立に行く、という話をしながら隙間を見ていくと、担任の隣の教師のデスク側面に何かがくっついているのが見えた。  担任が資料を取りに席を外した時に他の箇所も探してみたが、見つかったのは隣のデスクのそれだけだった。話を済ませ帰る際、わざとスマートフォンを落としてそれを確認してみる。  マグネットでくっついているそれの大きさは、スマートフォンと同じくらい。蒲鉾(かまぼこ)のような半円筒形をしていて全体が青色に施されている。どう調べようかと考える間もなく 「大丈夫?スマホ取れた?」 と担任が心配してくる。これをここで調べられる時間も期間も、もうない。仕方ない……と、私はそれを持ち出すことにした。隣の先生、できるだけすぐに返すので許してください。  青い蒲鉾を隠し持ちながら職員室の出入り口へ向かう途中、りく先生と目が合った。もしかして盗…拝借したところを見られたのか、とひやひやし、会釈だけしてそそくさと出ていく。  家に帰り、自室でを詳しく見てみる。青い蒲鉾はどうやら懐中電灯らしく、ボタンを押すと先のLEDライトが光った。なんだ、ただの非常用ライトか……とそんなわけがない。  電池を入れる場所の他に、余っているスペースがある。それも電池よりも大きなスペースが。よく見ると小さな穴がポツポツと空いているし、その穴から中を覗くと、懐中電灯には必要のないゴチャゴチャしたものが僅かに見えた。この蒲鉾が音の発生源で間違いなさそうだ。  表向きは懐中電灯のため、怪しまれないし取り除かれないのだろう。しかもくっつけるだけで仕掛けられる。おそらく隣の先生の物でもないはず。よく考えたものだ。しかし…、肝心の次の場所はどこだ?それらしいマークや文字列は見当たらない。  しばらく考えたのち、閃く。これは懐中電灯なのだ。さっきは明るい中で照らしたためわからなかったが、本来の使用目的通り暗闇で照らせば何かわかるのでは。  部屋の電気を消しカーテンを閉め、壁に向かってライトを照らす。明かりはそれほど強くなく、近づいてみないとわからない。壁に近寄り確認してみると、光の中に確かに★のようなマークと、その下に文字のような影が浮かんでいた。 「ホウソウシツ」 口に出して影の文字を読む。ホウソウ……放送室。次の場所は、放送室。 「ふあぁ~~~~」 安堵から、大きく息を吐きだす。三か月近くかかってしまったが、なんとか冬休みまでに間に合った。これで心に余裕ができる。  この日の夕飯のお味噌汁は、いつもより体に染み渡っている感じがした。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加