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藤棚の人影、偶然見つけた素の現象だけどそのままだと今一つ印象が弱い気がするんだ。できれば機械仕掛けなしに素のままで活かしたいんだが、何かいい考えはないか。
「素だと頭と胴体だけなんだよな?う~~ん。俺がホラー映画観た時に怖いと思うのは腕も脚もある人影だけど…あ、藤棚の上に物置くのどう?それで腕と脚の影作れないか?」
胴体部の大きさ的に脚は無理だ。でもそうか、腕なら後付けできるかもしれない。
「やるじゃないかご意見番、ほぼ採用だ」
「ご意見番やめい」
だが物を置くのは反対だ。固定する必要があるし、色を同化させても異物というのは結構わかってしまう。剪定中にバレるかもしれない。
「じゃあどうするんだ?」
要は異物じゃなかったらいいんだ。藤棚の蔓をそのまま利用すればいいんじゃないか。うまくいくかは試行錯誤を重ねないとわからん。
「え、そういうのって勝手に調整していいものなのか?」
「今更だろ。こっちはもう鏡を取り替えたんだぞ。それに、ちょっと変えたくらいじゃ何も害は出ないだろ」
「まぁ、被害が出ないならいいか。
調整できたら教えてくれよ、俺も見に行きたい」
「……はぁ。わかったよ」
「それで、後はなんか進捗あるか?」
いや、と言いかけたところで昼休憩のチャイムが鳴った。
「お、もうお昼かー。続き、飯食いながらにしようぜ」
「…ああ」
一番困っているのは職員室だ。なんでここにしたいと思ってしまったのか…。まだどんな不思議にするか具体的には決まっていないが、大まかな内容は一応伝えといてやる。
コンセプトは「着信音が鳴っても誰も出ない」だ。職員室内に携帯か電子オルゴールかを隠しておき、周期的に自動で鳴らす。周期の間隔は長めに取りたいが、仕掛ける機器の大きさによって変わるかもしれない。
「とまぁ、今はこんな感じのことしか思いついていないが――」
話をちゃんと聴いていたのか否か、中井は弁当のおかずカップに入ったミートボールに目を輝かせながら相槌を打っている。どうにもその相槌が適当に聞こえてならない。
「――何かご要望はあるかな、中井君」
「んー、えと、要望っていうか質問なんだけど、どうやってそれ隠すんだ?見つかって落とし物ボックスに回収、とかなったら終わりじゃね?」
ちゃんと聴いてるじゃないか。そこなんだ、行き詰っているのは。携帯の形をしていても薄型であっても、回収されたら失敗に終わる。不思議の正体とバレていないのに失敗に終わってしまうんだ。これほどまでに屈辱的なことはないだろう。どうすれば回収されないようにできると思う?一緒に考えてくれ。
「見つかっても回収されない物って……極端にデカい物、とか?物理的に回収不可能の」
バカなのか天才なのか…。だが却下だ。そんな大きい物をどうやってバレずに職員室に持ち運べると言うんだ。
「それもそうか。なら……あ、消火器とかどうだ?非常用の物は大丈夫そうじゃないか?」
消火器はさすがに法に触れるが…考えは良い線だ、「非常用」ならこの問題を難なくクリアできる。やはり天才なのか。
「あれ、俺またなんかやっちゃいました?がーっはっはっ」
そうやってすぐ調子乗る…。
次のステップだ。非常用の「何」を仕掛けるか。
「うーーん。やっぱ懐中電灯じゃね?っていうかそれしか思いつかねぇや」
実を言うと俺も懐中電灯しか思いついていない。だが…懐中電灯、結構いけそうじゃないか?それくらいなら俺でも作れるし、非常用ライトとして置いていても怪しくはないだろう。回収されにくいはずだ。
「マジかよ…完璧じゃねぇか」
「ああ、完璧だ」
「やはり天才か…?」
「……その天才にもう一度聞く。何か要望はあるか。形にこだわりたいとか」
「じゃあ、蒲鉾型で」
…?なぜ急に蒲鉾?
「おかずに蒲鉾入ってたから。いやぁ、ミートボール型と迷ったんよね」
はぁ。全くなんなんだこの男は。
「蒲鉾型ね。わかった……色は?」
「青!」
食品の色として一番ダメな色じゃねぇか。適当に言ってるだろこいつ。
「OK、後の細かい所は俺がやっておくよ。よし、これで職員室もいけるな」
これで五つ目ができた。残り二つ、さてどうするか...。
「……なぁ」
「?どうした」
「…いや、いいや。早く弁当食えよ。休み時間終わるぜ~」
何か言いたげだったが…まぁいいか。こいつの言う通り、弁当食べて体力回復させないと。でないと帰りに死んじまう。
その日はそれ以上不思議の話はせず、中井は文化祭を、俺は休憩を楽しんだ。
帰宅後、風呂に入る際に鏡を見てみると、肩には紐の痕が赤くくっきりと残っていた。
翌日、文化祭二日目にして最終日。俺は約束通り中井と一緒に色々な出し物を見て回った。もともと出し物に興味はないため特別楽しいとは思わなかったが、それなりに良い思い出を作れたんじゃないかな、とは思う。
文化祭の全てのプログラムが終了し、クラスの片付けを済ませて帰り道を共にする。雑談をしながら歩いていく。直帰すると思いきや、ふと中井が足を止め
「なあ、話、しようぜ」
と意味ありげな言葉と視線。
俺は「お、おぅ」と答え、言葉を交わさずとも自然にいつもの場所へ向かう。
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