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一時帰宅し、夕飯を食べてから二十時の三十分前に家を飛び出る。時間に余裕があるというのに、なぜか歩調は遅刻ギリギリの登校時よりも速くなっていた。
五分ほどで正門前に到着する。さすがに早すぎたか、と思ったが、待つこと数分で陸先生の姿が見えた。
「ごめーん、お待たせ。早いねぇ。こっちも早く済んで良かったよ。
じゃあ行こうか」
「?どこへ?」
「いつもの場所。すぐそこだよ」
そう言って歩き出す先生に離されないよう付いていく。心なしか、彼の歩調も速くなっている気がした。
いつもの帰り道とは反対方向に、坂道を下っていく。一つ目の交差点を曲がって学校の裏手の方へ。道なりに歩いていくと、その脇に自販機が見えた。
初めは気付かなかったが、その自販機の後ろは休憩スペースになっていて、そこにはまるで自販機に隠れるようにベンチが置かれていた。ここがいつもの場所らしい。
本当に学校のすぐそこだった。歩いて二分とかからないくらいの距離だ。
「学生の時に、ここで話し合っていたってことですか」
「そう、当たり。意外とね、バレないんだよ、ここは」
そう話しながら先生は自販機で飲み物を買う。続けて私の分も買ってくれた。
「さて、あいつが来るまでまだ三十分くらいあるけど…何か先に聞きたいこととかある?俺で良ければわかる範囲で答えるけど」
私はベンチに腰掛けホットミルクティーを飲む。先生は腰掛けずに立っていた。このベンチは二人座るともう窮屈になるというほどの幅だったため、気を遣ったのかもしれない。
ホットミルクティーで体が温まるのを感じてから、私は質問を始めた。
「確証がなかったんですが、図書室の『七不思議の掟』は不思議に入るんですか」
「うん、入るよ。順番的に一番目の不思議だね。
というかよく見つけたね、何のヒントもないからホントに運任せなんだけど」
「ええ、偶然見つけました。ホント運でした」
それから疑問に思っていたことを聞いていった。石膏像の穴のことや、蔓の調整は陸先生がやっていたのか、鏡をどうやってバレずに加工したのかetc...逆に男子トイレの調査をどうやってしたのか聞かれてしまったが。
質問が途切れたタイミングでふと思い出し、回収してしまっていた青い蒲鉾を陸先生に渡す。
「すいません、持って帰っちゃって」
「いいよ、こういうものだし。後で俺が戻しておくよ」
と許しを頂いたところで、あることに思い当たる。
「…あの、先生は私が不思議を探してるって、いつから気付いてたんですか」
あの時の彼の驚きは『七星』発言に対するもので、私が不思議を探していたことに対してではない。そこが少し疑問だったのだ。
「あぁ……最初は、藤棚の辺りかな。実は倒れちゃうより前から、中庭によくいるなぁ、もしや七不思議に気付いたのか?って思ってよく見てたんだよね。
そしたら熱中症で倒れちゃうもんだから、焦って駆け付けたよ。まさか……あんな風に被害が出るとは思いもしなかった。本当にごめんね」
「い、いえ…無理した私が悪いんです。ホント気にしないでください」
「そうか、ごめん、ありがとう。
…それで、中庭の次に職員室に来ることが目立って、あの懐中電灯を回収したところで確信したって感じかな」
あの時感じた視線や、目が合ったのもそういうことなのか。
「なるほどです」
私はもうすっかり冷たくなってしまった残りのミルクティーを勢いよく飲み干した。
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